小室 その時代から、全部経験されているからこそ、改革のポイントが見えたのですね。

うちではITのスキルやマネジメント能力など、個人の持っているスキルとレベルを一覧にした「スキルマップ」をよく活用して社員と面談をしています。

これは実例なんですけれど、ある社員と面談していた時のことです。スキルマップを挟んで「そろそろステップアップして営業だけでなく、コンサルティングも出来るように成長して次のステージに進んだら?」と私の思いを伝えると、本人は「いえ、そうしたら営業の小さな案件を拾う人がいなくなりますから、私はコンサルのステップには進みません」と言うんですね。

曽山 ああ、それは「偽善的責任感のワナ」にはまっていますね。「いえ、私はこれからも営業でがんばります」という気持ちが強いばかりに、営業の仕事を他の人に渡せなくなり、次のステップに進めなくなっていたのではないでしょうか?

小室 そうなんです。だから「私はあなたに、こういうタイプのコンサルティングができるようになると思っている。だから営業を渡せる相手を育てなくてはダメだよ。そのうえで営業は後輩に渡して、あなたは次のステップに進んで」と言ったんです。

そのうえで、本人の伸ばすべき課題点を話し合い、私の期待を全力で語りました。そうしたら、わずか3カ月で、立派にコンサルティングができるように成長できたのです。それまで持っていた営業の仕事も渡しきることができ、今では企業のメインコンサルタントを担当できるまでになりました。

曽山 すばらしいですね。ポイントはやはり意思表明ですよね。その社員の方も、面談で「いや、私はこのままの営業でいいと思っている」と言えたから、「そうじゃない」と小室さんも気づいたし、その人に対する期待を語れた。こんなふうに意思表明できる人が育っていくと、実は管理職自身もすごく楽になると思います。

※この対談は、プレジデント社の新刊『「3人で5人分」の仕事を無理なくまわす! 』(1月21日発売)に収録されているものです。