「ここまでがんばれる」の見極めが肝心
前の項目で述べた「がんばれと言ってはいけない」という言葉が、金科玉条のように広まったのは、時代的な背景があったのかもしれません。
以前は、社会的にうつ病の理解はなかなか進んでいませんでした。そのために「うつ病なのにそう認識されない人」が数多く存在していました。
仕事をしていてもはかどらない、元気がない。しかし、周りは病気のせいだとは思いもよらないのです。だから悪気なく「もっとがんばれ」という言葉を口にしてしまい、それがうつ病患者を追い詰め、無理をさせていました。
その後、うつ病が社会的にクローズアップされるようになり、「がんばれと言ってはいけない」がわかりやすかったこともあり、一般に広く伝わったと考えられます。
前述の通り、うつ病の回復状態によっては、「がんばれ」と患者の背中を押してあげたほうが、より回復が進みます。例えば「ここまでできないと、次の段階には進めませんよ」と示してあげることは重要です。
とはいえ、無理は禁物です。「ここまでなら、無理なくがんばれるだろう」という一線を、医師は見極めなければなりません。
「抑制」の症状は分かりにくい
不安感や憂うつ感がどの程度かも重要です。さらに、注意しなければならないのは、「抑制」の症状です。
抑制とは、「頭が働かない、判断力が鈍る、根気がない」といった症状です。憂うつさは「なんとなく元気がなさそう」「表情が暗い」といった形でわかりやすいですが、抑制の症状は表に表れにくいのです。
抑制の症状がどれだけ回復しているのか、慎重に様子をうかがう必要があります。回復しているように見えても、実はまだ集中力が回復していないため、仕事に必要な文書をしっかり読むことができないケースもあるのです。
治療においては、うつ病からの復職を受け入れる側との連携も必要になります。
上司が全てを把握することは難しいと思いますが、環境が整っている会社であれば、人事部や産業医、あるいは保健管理センターなどが復職や復帰の仕方について対応してくれるでしょう。本人、病院、職場が連携しながら、復職を目指していくのが理想です。