そもそも「他人への関心が薄い」

自閉症の症状は、対人恐怖とは異なり、むしろ「他人に関心がない」「人との関わりをあまり好まない」ことに基づいています。対人恐怖においては、人と関わろうとしてもできないことから不安や恐怖心が生じるわけですが、自閉症などのASDにおいては、そもそも他人に関心が薄いのです。

その結果、「他人の気持ちを理解しない」、「場の空気を読めない」といった特徴につながり、周囲からの孤立を招くことになります。

ASDの人が一見、他者との関わりに積極的であるようでも、実際には働きかけが一方的で、適切な関係を構築できていないケースもよく見られます。

以前、次のような研究をしたことがあります。

ASDの人が、他人と会話をするときの視線を、アイトラッカーという機器を用いて計測しました。

普通の人は、会話をしながら相手の顔や目を見ることが多いのです。ところがASDの人は、相手の顔や目ではなく、体や背景を見る頻度が高率でした。

ASDの子供においても、多くの場合、集団のなかにいるのに奇声を上げたり、跳ね回ったりと、他者の存在を気にかけることがありません。

「空気が読めない人間」として扱われる

ASDの人は、「人嫌い」というほど他人を積極的に嫌っているのでもないし、他人に不安や恐怖を感じているわけでもありません。むしろ、他人を気にしないし、視界に入っても特別な存在と認知しないのです。

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アイトラッカーの研究は、この点を実証したものとなっています。ASDの人は、自分が思ったことや本当のことを言いたい、という気持ちを抑えることができません。それが「相手の都合も顧みず、自分が思ったことを話し続ける」「唐突な発言をする」など、周囲に対する配慮の欠如として表れます。

一方でADHDにも、衝動性の表れとして「思いついたことを言わずにいられない」傾向がありますが、ASDの人は「自分が話していい状況なのかを認識できていない」ことが原因で、同様な行動がみられるのです。

その結果として、周囲から浮いてしまうことになりがちです。さらに、「空気が読めない」「わがままで身勝手」な人間として扱われることになりかねません。本人も、自分が「変わった」人間であると見られていることに気がつき、自分から距離を取り引きこもっていくケースもあります。

事実、烏山病院の専門外来を受診したASD患者302例について、健常者と比較したところ、いじめの被害、不登校、引きこもりなどが高率でみられており、これに対する対策が求められています。

(写真=iStock.com)
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