老後資金のことを考えれば年収1400万円ないと厳しい
筆者は、マンション購入者に対して手元にお金を残すことを重視するため、「頭金は少なめでいい」「繰り上げ返済もあまりやらなくていい」とアドバイスをする。
しかし、仮に世帯主が35歳でハルミフラッグを購入したとすれば、4年後の入居時は39歳。ここから返済がスタートする。この場合、定年の目安となる60歳や65歳の時点で残債はどうなっているだろうか。
残債は21年後の60歳時点では約3267万円、26年後の65歳時点では約2166万円となる。「老後2000万円が不足」ともいわれる中、65歳の時点で仮に2000万円の老後資金に加えて、安心できる状況として残債と同額の貯金を確保したいと考えれば4166万円の貯金が必要になる。
返済開始の39歳から65歳時点で約4000万円の貯金をゼロから貯めるには、金利をゼロとすれば単純計算で毎年160万円の積み立てが必要になる。月額にして約13.3万円だ。
先ほど試算したように、毎月の諸費用も含めて約26.5万円の住宅コストを払いながら、この約13.3万円を貯めると合計約40万円。さらに、食費など日々の生活費があるわけで支出額はどんどん膨れ上がる。
生活費の一例として、住宅コスト以外の生活費と教育費で別途月20万円、生活費以外の支出を月20万円(夫婦のお小遣いに旅行や帰省、家具家電の買い替え、冠婚葬祭などを含む生活費以外の支出全部)と考えれば、住宅コスト+貯金+生活コスト+生活費以外の支出で合計は月約80万円だ。つまり、年間で1060万円の手取り収入(給料から所得税、社会保険料、住民税を除いた額)が必要という計算になる。
これだけの額の手取り収入を得るには世帯年収で1400万円以上は必要だ(夫婦でそれぞれどれくらい稼ぐかによって、税率や社会保険料の負担が変わり、手取り額も変わる)。
子供を私立中学へ通わせたい、車を保有したい、ならばプラスα
また、子どもは中学校から私立に通わせたい、車を保有したい、お金のかかる趣味がある……といった家族の希望や個別事情も考慮すればこれでも足りない(ハルミフラッグの駐車場は3万円~)。
ここまでの試算は、老後資金や65歳で完済するための貯金額(月13.3万円)を含んではいるが、共働きでこれだけ稼いでも余裕のある生活とはいえない。もちろん貧乏とか生活が苦しいといった水準ではないが、少なくとも世間一般でイメージする世帯年収1400万円の贅沢な暮らしとはほど遠いのではないか。
夫婦共働きの場合、「病気で働けなくなった」「出産・育児で時短勤務になった」といった事態になれば、マネープランはたちまち崩れる。老後資金や65歳で完済するための貯金をする余裕がなくなる可能性も大いにあるだろう。
なお、上記の計算には住宅ローン減税によるプラスの効果は考慮していない。
現在は、年末のローン残高に1%をかけた額が10年間、所得税と住民税から差し引かれる。消費税増税後の契約・引渡しの場合、緩和措置としてさらに11年目から13年目まで同じように年末のローン残高に1%をかけた額か2%の増税分、いずれか低いほうが同じように所得税から差し引かれる。
住宅ローンを共働きの夫婦それぞれに上手く割り振って、返済負担率の上限を回避しつつ、この減税分を無駄にしなかった場合、合計で約778万円が戻ってくる。この額を35年間で1カ月あたりに直すと約1.8万円程度でその分だけ余裕が生まれる。購入から13年でこれだけ税金が戻ってくるのであれば頭金や諸費用で減った貯金を元に戻し、その後の大学進学費用や老後の生活費にあてることができる。これも計算に含んでおくべきだろう。