10%の値引きと10%のポイント還元、どちらが得なのか。東京大学経済学部の阿部誠教授は「実際に得するのは値引きだ。しかし、人間には値引きよりポイント還元に惹かれてしまう習性がある」という――。

※本稿は、阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/girafchik123)

「衝動買い」を誘っても、後悔されたら逆効果

顧客が製品・サービスを購買・消費したあとの行動は、インターネットの発達とともに、以前にも増して影響力を強めています。満足した顧客は、リピーターになる可能性が高まるだけでなく、SNSや友人へのポジティブな口コミによって、ほかの消費者からビジネスを得る機会につながります。

逆に不満を持った顧客は商品を返品したり、ネガティブな口コミを流したり、公的手段による苦情や訴訟を起こしたりします。そのため、近年、多くの企業は業績指標の一つに顧客満足度という考え方を取り入れています。

ところで、購買に関して顧客の中で態度、信念、行動に矛盾が生じると(これを心理学では認知的不協和と呼びます)、顧客満足度は下がってしまいます。たとえば衝動買いしたものの、よくよく考えると、本当に必要だったのかと疑問を抱いているようでは、満足している状況とはいえません。そこで、企業は顧客の購買を正当化・理由付けることによって、認知的不協和の発生を防いだり、もし生じた場合には解消させたりする手助けを提供することができます。

「値引きクーポン」は購買を正当化する

たとえば訳あり商品には、「あなたは安物のバーゲン品に飛び付いたのではありません。理由があって安くなったいい商品を買ったのです。あなたの選択は正しかったのですよ」という意味合いがあります。高価なモノ・サービスに対する購入に罪悪感を持つ顧客に対しては、「自分へのご褒美」というように、「たまには贅沢をしてもいいのですよ」という広告が効果的です。

人気No.1やランキング1位を謳う広告は、購買を検討している新規顧客のみならず、すでに購買した顧客に対して「多くの消費者が下したように、あなたの選択は正しかったのですよ」というメッセージを送っています。

また、値引きクーポンは額面が少額でも、「クーポンで安く買えたから」と自身の購買を正当化させるきっかけをつくります。同様に、家電量販店やスーパーマーケットの最低価格保証は、顧客に購入価格に対する認知的不協和を抱かせない作用があります。