小さな利得を分離すると満足度は高くなる

計算上では値引きの方が得なのに、なぜポイント付与の方が顧客にとって魅力的だったのでしょう? 理由の一つは、プロスペクト理論という考え方によって説明できます。簡単にいうと、大きな損失と小さな利得は、統合するより分離する方が消費者の満足度は高くなるのです。

阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)

ポイントは次回以降の購買に使えるため、今回の購入とは別の(分離された)利得と見なされる傾向が強くなります。それに対して、現金値引きでは支払金額から値引き分が減った(統合された)損失と見なされます。たしかにポイント還元を考慮して「実質◯◯円」と、購入時点では購買とポイントを統合して考える人もいます。

しかし多くの人は、ポイントを貯め続けて、1000円や2000円といった、ある程度まとまった額になったときに使うことが既存研究で確認されていることからも、ポイントは別会計に計上されるという分離的な解釈が支持されるでしょう。

さまざまなセールス・プロモーションを統合型か分離型に分類すると、統合型には値引きやクーポンが、分離型にはポイント、リベート、おまけ、増量が含まれます。ポイント収集に対して強い魅力を感じて、アディクション(依存症)の状態に陥る人もいるので、かしこい消費者としては注意が必要です。

これは生体の本能的な習性である、(1)ゴールに近づくほど、その努力を加速させる「目標勾配仮説」や、(2)ポイントを使って購買する喜びを経験することによって、その頻度が増えていく「オペラント条件付け」と関連しています。たとえばマイレージを貯めるためだけに飛行機に乗る、特典レベルに到達したいがために無駄な買い物をするなど、ポイント収集自体が目的化してしまっては、本末転倒です。

阿部 誠(あべ・まこと)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
1991年マサチューセッツ工科大学博士号(Ph.D.)取得後、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に論文を多数掲載。2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋地域の大学のマーケティング研究者第1位に選ばれる。おもな著書に『(新版)マーケティング・サイエンス入門:市場対応の科学的マネジメント』(有斐閣)などがある。
(写真=iStock.com)
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