なぜ青春の記憶はよみがえるのか

なぜ10代~20代の頃のことをよく思い出すのだろうか。それは、今の自分の成り立ちをうまく説明するエピソードがとくに選ばれて自伝的記憶をつくりあげていくという原理があるからだ。10代や20代は、広義の青年期にあたり、自己を確立し、自分を社会に押し出していく時期である。

その時期には、その後の人生を大きく方向づける出来事が立て続けに押し寄せる。ゆえに、10代から20代の頃の自伝的記憶には、人生上の重たいエピソードがたくさん詰まっている。友だち関係がどのようだったか、とくに親友ができたとか、孤立気味だったとかいうことが、その後の人生における対人関係のあり方に大きく影響する。

恋愛や失恋の経験は、その後の異性に対する姿勢に影響するだろう。受験の成否は自信の程度を決定づけるし、どんな学校に通うかは友人関係も含めて価値観や生き方に大きな影響を及ぼすはずだ。

どんな仕事に就くかも、その後の人生を大いに左右することになる。結婚するかどうか、どんな相手と結婚するかといったことも、その後の人生を大きく方向づける。

このように、10代~20代には、親友との出会い、恋愛・失恋、受験・進学、就職、結婚など、その後の人生を大きく左右する出来事が集中している。それらは人生観や人間観を揺さぶり、人生行路を方向づけるものとなり、今の自己の成り立ちを説明するのに不可欠のエピソードとなる。そのためによく覚えているのである。

今の生活に不満を抱える人の記憶は暗い

私は、多くの人たちの自己物語を聴取してきたが、これまでの人生を悔やんでいる人も少なくない。そのような人は、自分の生い立ちを否定的に語る。

自分は過去の生い立ちが不幸だったから、こんな不甲斐ない人生を送ることになった。過去を振り返っても、嫌な思い出ばかりで、良い記憶が何もないし、こんな暗い過去を抱えた人間が幸せになれるわけがない。そんなふうに開き直る人がいる。

そのように言う人の頭の中には、過去の生い立ちが今の自分を導いている、過去の記憶が今の自分の生きる世界を色づけている、といった発想が染みついている。もちろん私たちの現在、そして未来は、物心ついて以来の自己形成史に負っている部分が少なくない。ゆえに、そのように考えるのは、けっして間違いとはいえない。むしろ、多くの人が共有する常識的な見方といってよいだろう。

だが、私たちは、過去に縛られているだけの存在ではない。逆方向の影響もある。私たちの現在の心のあり方が、私たちの過去の風景を決定するといった側面だ。