それは、ごく最近のことかもしれないし、若かりし頃のこと、あるいは幼い頃のことかもしれない。そこから連想が働き、つぎつぎに懐かしい記憶が蘇ってくるだろう。懐かしい思いに浸っていたい気持ちもわかるが、そこからさらに記憶を遡ってみることにしよう。映画やビデオのフィルムを映写しながら逆送りするときのように。

映像を逆送りという心の作業は、瞬時にはできないので、根気強く時間を遡るように試みてほしい。しばらくすると、より昔の記憶が浮かび上がってくるはずだ。そのままずっと遡っていくと、いったいどこまでたどり着けるだろうか。それは、「最初の記憶」として心理学の世界で研究されているが、概ね3歳くらいまで記憶を遡ることができることがわかっている。

最も古い思い出はだいたい3歳のとき

心理学者ダディカたちは、最も早い時期の記憶をたどっていくと、その平均月齢は生後42カ月前後となることを見出した。同じく心理学者ハリデイも、最早期記憶の平均月齢は39カ月程度であると報告している。

私も、さまざまな年代の人々数千人を対象に、最初の記憶について調べてきた。もちろん記憶には大きな個人差があり、小学校時代のことさえほとんど思い出せないし、10歳以前のことなどまったく何も思い出せないという人もいるものの、多くの人の最初の記憶は3、4歳の頃の出来事についてのものとなっている。

たとえば、つぎのようなものが最初の記憶としてあげられた。

「お父さんとお姉ちゃんと私で、原宿を歩いていた。小さかった私は、すぐ足が疲れて、お父さんに『しんどい』と言って迷惑を掛けたのを覚えている。あのときは、せっかく東京に行ったのだから、たくさん観光したかったけど、お父さんとお姉ちゃんについて行くのに必死だった。(3、4歳頃)」
「幼稚園で竹馬が何日練習してもできなかったが、やっとできたときのこと。自分の力でできたという達成感があって、嬉しかった。(4歳頃)」
「母親とデパートに買い物に行き、途中ではぐれ、はじめはすぐ見つかると思い安心していたが、時間が経つにつれてだんだん不安になり、『どうなってしまうんだろう』『母じゃないだれかに育てられることになるんだろうか』とすごく不安になったことを覚えている。一瞬ではあったけど、今後の自分の生き方を考えたのを覚えている。すごく怖かった。今でも、その時のことを思い出すとすごく怖くなる。あの時のすごく困った気持ちが今でも蘇る。(3歳頃、幼稚園に入る前)」