アナリストの多くはストリーミングサービス投入のタイミングに理解を示した。ここで何らかのトータルアクセス対策を打ち出さなければ、ネットフリックスはじり貧になるとみていたからだ。

だが、テクノロジー系ライターは違う見解を示した。視聴者がインターネットの世界に閉じ込められるとしたら「インスタントビューイング」の価値はあまりない、と結論したのだ。重要なポイントだった。映画やドラマのような長時間作品を見るのならばテレビ画面ではないのか? 小さなノートパソコンの画面上で見たいと思う消費者はどれほどいるだろうか?

しかし、ヘイスティングスは未来を垣間見たのだろう。たとえ直感に反していても大胆にストリーミングへ向かわなければならない、と思ったのだ。

顧客の好みが把握できるストリーミングの強さ

そんななか、ネットフリックスの市場調査チームは顧客からのフィードバックの中に「勝利の方程式」を見いだした。ストリーミングで映画鑑賞中の顧客行動を観察すれば、鑑賞中に顧客が何を考えているのかリアルタイムで把握できるということが判明したのだ。

ジーナ・キーティング著、牧野洋訳『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(新潮社)

視聴者はどのシーンでストップボタンを押して巻き戻したのか? 好きでない映画を選んでしまったときにどのくらいの時間で見るのをやめるのか? 一時停止ボタンをどこで押したのか? 早送りでどんなシーンを飛ばしたのか?

このような情報を生かすシステムがあれば、人間の行動について個人的なレベルにまで落とし込んだ深い分析が可能になり、フォーカスグループとは比べものにならないほど強力な武器になる。

ネットフリックスは映画評価システムに頼らなくても顧客の好みを把握できるようになるのだ。ペプシコがコカ・コーラのニューコークを葬り去ったように、ネットフリックスはトータルアクセスを葬り去ることができるのだろうか? そのためにどうすればいいのかロスには分かっていた。消費者との「感情的なつながり」に頼るのである。

こうしてネットフリックスはストリーミング配信を徐々に拡大し、2010年にはブロックバスターを倒産に追い込んで現在の地位を不動のものにしたのである。

ジーナ・キーティング
フリーランスの経済ジャーナリスト。米UPI通信に続き英ロイター通信に記者として在籍し、10年以上にわたってメディア業界、法曹界、政界を担当。独立後は娯楽誌『バラエティ』、富裕層向けライフスタイル誌『ドゥジュール』、米国南部向けライフスタイル誌『サザンリビング』、ビジネス誌『フォーブス』などへ寄稿している。2012年、処女作『Netflixed』を刊行。
(写真=時事通信フォト)
【関連記事】
Netflixが"サービス初日"にやったこと
映画業界がやっと気付いたネトフリの怖さ
なぜ日本企業はアメリカで通用しないのか
堀江貴文「日本人はムダな仕事をしすぎ」
「PDCA」は日本企業を停滞させた元凶だ