消費者は「ブランドへの思い入れ」に金を出す

ローリング・ロードショー(2年目以降は「ロケ地でライブ!」へ名称変更)はマスコミでも取り上げられ、ネットフリックスのイメージ向上に大きく寄与したようだ。顧客満足度調査でネットフリックスは毎年のようにトップに顔を出すようになったのだ。映画館で映画を見るときの喜びや感動がネットフリックスブランドに吹き込まれたのかもしれなかった。

消費者が理屈抜きに特定のブランドに思い入れを持つようになれば――現実にはなかなかそのようにはならない――それは強力だ。アルゴリズムや表計算ソフトで定量化できるものではない。

消費者が顧客として毎月おカネを払い続けるかどうかを決定づけるのはブランドへの感情である、とロスは理解していた。ネットフリックスの経営チームの中でそのように理解していたのはおそらく彼一人だった。要するに、数字と論理が支配する企業文化に対抗する唯一の存在がロスだったのだ。

ビデオレンタル界の「コーラ戦争」が勃発

非主流のトップブランド――強くてカッコいい皮肉屋のような存在――としての地位確立に成功しながらも、ロスはまだ安心できなかった。2006年春にハッキング・ネットフリックス上の投稿記事を読み、ブロックバスターがひそかに進める新サービス「トータルアクセス」について知ったのである。

トータルアクセスは、オンラインで借りたDVDの返却と引き換えに店内DVDの無料レンタルが受けられるという、ブロックバスターの最後の「切り札」だった。これを見て、ロスは「これはビデオレンタル版コーラ戦争(1980年代に勃発した、ペプシコとコカ・コーラのマーケティング戦争)だ」と思った。

確かにトータルアクセスは手ごわかった。実店舗の利便性とオンラインサービスの品揃えを兼ね備えており、実店舗を持たないネットフリックスにとってまねするのは不可能だった。

だが、彼にはコーラ戦争から学んだ教訓があった。ブランドに対する愛着度合いなどの消費者感情が、最終結果に極めて大きな影響を及ぼすのである。