「偉い人やなあ」と思わせた一言
伊藤さんからは公私ともに、有形無形のさまざまな影響を受けました。親交を深めていく中で、伊藤さんとは何かあれば相談に乗っていただけるまでの間柄になりました。
現在、イズミの社長を務めている私の娘婿、山西泰明はヤオハングループの創業者、和田良平・カツの五男です。彼の長兄が、ヤオハングループを一大流通チェーンに成長させた和田一夫氏です。当時、和田さんは海外展開を積極的に進めていましたが、「国内で事業の基盤がしっかりしていないのに、やり過ぎではないかな」としだいに心配になり、あるとき思い切って伊藤さんに相談することにしました。
「今のヤオハンのやり方で大丈夫でしょうか。親戚としてやはり忠告せにゃいけんと思うんですが、どうですかね」
私の話を黙って聞いていた伊藤さんは、しばらくして
「山西さんね、(和田さんは)聞く耳を持たれますかな」
とだけおっしゃった。どんなに実のある意見をしても、それを相手がきちんと受け止めてくれるかどうか、そこから忠告の是非を判断するべきだ、という意図をこの一言に込められたのでしょう。「偉い人やなあ」と思いましたね。
結局、伊藤さんのアドバイスをもとに考え直し、和田さんに意見することは控えました。その後、ヤオハンは会社更生法を申請し倒産するに至りました。周りの意見に左右されず独自路線をひたすら走り続けた和田さんですから、伊藤さんのおっしゃるように、私の意見で経営方針を変えることはなかっただろうと思っています。
「イズミの売場づくりを学んでいきたい」
イズミが業務提携を記者発表した日、セブン&アイも決算発表の席上でこの提携について公表しました。日本経済新聞の記事によると、提携発表の場で伊藤雅俊さんの次男である伊藤順朗取締役が、イズミとは「現場レベルでかねて交流があり、信頼関係を醸成してきた」とし、「地理的に補完関係にある経営資源の有効活用で構造改革を進められると期待している」と強調した上で、「イズミの売場づくりを学んでいきたい」と語られたとのことです。
セブン&アイの次の時代を担う順朗さんから、こうしたコメントをいただくことは大変ありがたいと思いましたが、自分にとってヨーカ堂は多くのことを学ばせていただいた“お師匠さん”であり、その位置づけはこれからも変わりません。
ヨーカ堂さんにとってGMSは、祖業であるというだけでなく、今後の発展を方向づける企業活動の“土台”であるといえるのではないでしょうか。
GMSという業態にはまだまだ驚くほどの伸びしろがあるはずです。そこで私たちが少しでもお役に立ち、ヨーカ堂さんの“原点”であるGMS事業に貢献できるとしたら、こんなにうれしいことはありません。