「女に興味はないか?」について行った
バングラデシュの隣国、インドを旅しているときだった。仲良くなった地元の若者たちと昼間から酒を飲んでいたら、「女に興味はないか?」と問われたのだ。
インドの売春街といえば、コルカタのソナガチなど、いくつか有名なところもあるが、当時滞在していたのは田舎で大して大きな街でもなかった。世界遺産でもある性をモチーフにした雄大なレリーフで有名なカジュラホに近いだけの街だった。大都市に風俗街があるのは年若い自分でも予想ができたが、こんな辺鄙な場所にもあるのかと驚いた。
飲酒運転という概念すらないであろう若者の運転するバイクに乗って、村からかなり離れた場所まで連れてこられた。そこには土壁の家と呼べないようなボロ屋があった。
「ここだ」と言われて近寄ると、玄関っぽい場所の横にあるかまどにうずくまるようにして火を起こしている人がいた。年齢はわからない。性別はサリーっぽい衣装から女だとわかる。真っ黒に日焼けしていて、生活の苦労が顔のシワに刻まれている。
もしかしたら若いのかもしれないが、やっぱり老婆なのかもしれない。でもたしかめる勇気はない。
抱かれることが「存在意義」になっている
「女ってどこ?」
この建物の中に若い子でもいたらいいなと期待して聞いた。
「そこにいるだろ」
無慈悲な返事に心が折れた。ここに来たのは性欲じゃなくて好奇心からだった。その欲求はすでに満たされていた。彼女は売春を生業とするカーストに所属していると説明された。
つまり、抱かれることが彼女のこの村での存在意義、生きる理由となっている。この場所で訪れる男たちの性を受け続ける生活がどれほど辛いのか。そのことを考えてみたが、想像が追いつくものではなかった。
このときには、ただ後味の悪さだけを噛み締めて立ち去ることしかできなかった。そして、何もする必要がなかった。それでも忘れられない記憶として私の心に刻まれていたのだ。
ジャーナリスト・編集者
1977年、宮城県生まれ。考古学者崩れのジャーナリスト・編集者。無職、日雇労働、出版社勤務を経て、独立。著書に『アジア「罰当たり」旅行』(彩図社)、『世界の混沌を歩くダークツーリスト』(講談社)などがある。人気番組『クレイジージャーニー』(TBS系)に「危険地帯ジャーナリスト」として出演中。