バングラデシュで好まれる「豊満な女性」
後味の悪い話だったが、もう少しこのトーンにお付き合いいただきたい。世界中を旅して取材していると売春にまつわる悲惨な話を耳にすることは多い。以前、世界一危険な仕事といわれる、バングラデシュにある「船の墓場」と呼ばれる船の解体所を訪れた。その際に訪問することがかなわなかった場所がある。それが売春宿だった。
バングラデシュの男が一般的に好むとされる性癖がある。それは豊満な女性である。
だが、売春宿で働いている女たちは、病気や貧しさなど様々な事情から痩せていることも珍しくない。そんな非人道的な状況が許されるはずがないと思うのだが、現実はもっとむごたらしい。
バングラデシュでは、売春そのものを政府が公認しているために、全体的に取り締まりがゆるいとされているのだ。なかには、児童買春を生業とするために、人身売買に手を出す業者もいるほどだ。
リクルートスタイルが非人道的だとしても、働くことになった以上は逃れられないため、女性たちは客をとるしかない。それも男たちの気を惹くために驚くべき手段をとるのだ。
牛用ステロイド剤を摂取して太る女性たち
オラデクソンという薬品を知っているだろうか? ほとんどの方は聞いたこともないだろう。それもそのはずで、ステロイドなのである。それも牛用のものなので、獣医か酪農家でないと耳にすることもないだろう。
彼女たちは、そんな牛用ステロイド剤を摂取し、太って豊満な体にするのだ。この話を聞いたときに、この世の地獄のひとつかもしれないと思った。
男の性癖のために肉体を改造して、薬の副作用や性病によって人生を奪われていく。それも若いというか、ほとんど子どものような女の子たちがである。
彼女たちは、様々な理由があって売春宿で働いている。貧困、離婚、人身売買……。どんな理由であれ、そこにしか居場所がない人たちがいるという現実を知ったのは、20歳のときだった。