「伝説の鯉漁師」に交渉のコツを学ぶ

孫社長が“これこそ交渉のコツ”と引き合いに出す「鯉取りまあしゃん」の挿話がある。福岡県・筑後川に実在した伝説の漁師のことだ。

「鯉取りまあしゃん」こと上村政雄氏(1913~99年)。福岡県久留米市の素潜り漁の達人。火野葦平の小説『百年の鯉』のモデルとされている。

「その漁師さんは冬、裸の体に油を塗り、火で温めておいてから寒い川の中に潜るんです。川底に寝ていると、温かい体に鯉が向こうから寄ってくる。それを両脇と口で計3匹つかまえて、川から上がるそうです」

狙った相手を追いかけずに引き寄せる「まあしゃん」のように、人を自然と引き寄せる技はあるのか。

「経営者も含めて卓越した人、目上の人というのは、聞かれれば意外と答えてくれるものです。むしろ聞かれるのを待っていると考えたほうがいいでしょう。『こんなことを聞いたら失礼じゃないか』というのは、いかにも考えすぎ。機会を逃さず、恐れずに聞くことが大事です。そしてもし、『こんなふうにしてみたら』とアドバイスされたら、やはりここでも素直に『わかりました』と答えて、すぐに実行することです。それが必ず次につながりますから」

引き寄せたい相手について、三木氏は事前準備を周到に行う。

何か話せるような接点を見つけておく

「まず相手の著書を読むとか、経歴や趣味嗜好、関心事を調べ、相手の仕事の成果に結びつく情報や話題といった“お土産”を考えます。自分の仕事や交友範囲で、何か話せるような接点を見つけておくわけです。興味のある話題であれば、無口な人でも饒舌になりますし、不愛想な人だって身を乗り出してくれます」

相手に対する思いを「お土産」という形で見せることが、相手の心を開くわけだ。いずれにせよ、優れたコミュニケーションに膨大なインプットは必須。「“何となくの雑談”って、ないんですよ」と三木氏が示唆するところは小さくない。

三木雄信(みき・たけのぶ)
トライオン社長
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所を経て98年ソフトバンク入社。2000年社長室長。06年ジャパン・フラッグシップ・プロジェクトおよびトライオンを設立し現職。著書に『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきた すごい時間術』ほか多数。
(撮影=石橋素幸 写真提供=上村政秀 写真=iStock.com)
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