その場合、公式な場面以外に、さまざまな機会をとらえて接触しておくことも大事である。事業本部長やその下にいる事業企画担当の人たちと「せめぎ合い」の場を設けながら、ひざ詰めで議論を重ねておく。そうしないと、実のある経営計画はできないというのが多くの企業にて計画策定を支援した経験的な事実である。

悩みの二点目は、事業内容への理解不足をどうするかということだ。

企業は生き物である。コア・ビジネスが電機事業であったとしても、GEのように金融やインフラ事業に強みを持っていたり、ソニーのようにゲームや映画事業に乗り出していたりと、巨大企業は非常に多岐にわたる事業を抱えている。そのため経営企画部のエリートといえども、すべての事業に精通することはたいへん難しい。

一方で現場の社員は、専門分野にどっぷりと浸かり、お客のニーズを細かいところまで把握している。事業内容は複雑・高度。彼らと話をするときは、ややもすると専門用語の羅列に終始し、全社的な見地からの座標軸を見失いがちだ。そんな相手と、どのようにせめぎ合っていけばいいのか。

大事なことは、あくまでも同じ土俵の上で議論を展開するということだ。少なくとも専門用語の多用を避け、わかりやすい共通言語を最初に定義することが必要だ。そのうえで、いちいち論点を確認・共有しながら現場を巻き込んでいく。現場にもわかる言葉で、なおかつ戦略的、財務的な要素もうまく組み込みながら、わかりやすい議論をしていくのだ。

議論を進めるときは、最初に会社が考える事業の全体像を提示する。これは最終的な結論であり、変えることはできない。ただ、その結論に至る前提として、いくつかの論点がある。それを一つひとつつぶしていくのだ。

たとえば戦略的な側面からは、次のような問いかけが有効だろう。

「この事業はグループの方向性に照らして整合性がありますか。やりたいことはわかります。でも、いま会社が目指している方向性とは一致しません。また、経営課題の解決に資するような投資ともいえないのでは?」

「たしかに新規事業としてはおもしろいと思います。その意味で価値はある。しかし他の事業との関連性、シナジーは本当にありますか。この事業によって、いま持っている資産を有効に活用できますか。希有な資産で、なおかつ希少性のある事業ですか?」

このほか財務面や、将来どういうリスクがあるのかという内容を含めて、具体的な論点、わかりやすくて大きな論点を設定する。

次に重要なのは、それを定量化するということだ。経営企画部は最終的な総合評価をしなくてはならない。曖昧な議論をかわすだけでは、結論に行き着くことができない。

たとえば「会社の方向性と合っていますか?」と問いかけるときに、評価軸が曖昧だと、場合によっては相手に「こう考えれば合っているはずだ」と強弁することを許してしまう。

それを防ぐために、たとえば10本の軸をつくって、その事業への評価を定量化する。そののち、お互いに納得感のあるひざ詰めの議論の中で、評価を固めていくというプロセスが大事なのだ。

二点目の悩みをまとめると、日常的にその仕事を手がけているのではない以上、事業内容への理解が不足しているのは仕方がない。だから最初は大づかみの論点ベースで話をし、その中で具体的に定量化を重ねていく。結果として、総合評価が導き出される……。こういう議論の進め方が必要なのだ。

言葉を換えれば、現場の人たちを自分の土俵へ引っ張り込むということだ。これなら、話がかみ合わないということはなくなるだろう。