経営計画を形骸化させない「3つのプロセス」

悩みの三点目は、事業本部との数値目標を調整しきれず、計画自体が形骸化してしまうということだ。

事業本部側にいわせれば、中期経営計画における数値目標の目線が高すぎる。そのため、現場がより堅めの見通しをもとに年度予算を組んでしまう。結果として中計の数値と予算とが乖離し、計画自体が実効性を失ってしまうのだ。

「俺たちはこのために年間の半分くらい時間を使っているのに、現場はほとんど計画を見ていないのか……」

経営企画部のスタッフは、さぞ無念だろう。

この形骸化という問題は、さまざまな業種で起こりうる。メーカーばかりか、数字にはうるさいはずの銀行でも意外に多いことが判明した。

地方銀行と第二地方銀行の決算を例にとると、一昨年度、中期経営計画を見直した銀行は30行に上った。そのうちデータを公表している17行について、中計における予測と実績の乖離を調べてみた。

すると、17行のうち実に半数以上が20%以上も予測と実績が乖離していた。大部分は実績のほうが悪い。

銀行はお金を貸すとき、融資先に対して「計画蓋然性の高い、堅い数字をつくれ」とさんざん要求するが、足許を見ると自分たちもまったくそれができていないのだ。銀行でこれなら、他の業種は推して知るべし。

多くの企業で中期経営計画は形骸化している。「当社は大枠でこういう方向性をめざします」と発表するだけの、根拠の薄い数字に成り下がってしまった。これは由々しい問題である。

どう立て直していくべきか。

参考にすべきなのは、経営が傾き再生が必要になった企業である。そういった再生企業の経営計画は、次のA・B・Cのプロセスでつくられる。

まず「A」は、アナリシス(Analysis)。マクロの環境変化やその予兆をミクロの経営にどう生かすかという分析である。

「B」は、足許を固めるという意味のベースメント(Basement)だ。要は最も堅いミニマムに近い売り上げを見込んでおくということだ。

そして「C」は、コンストラクション(Construction)。上に積層していく力、追加施策の積み上げである。平たくいえば、たとえば営業努力によって来年度はどこまで上積みできるか。その一個一個の根拠のある積み上げをどこまでできるかを考える。

A・B・Cの観点から計画をつくることによって、予測と実績との乖離を少なくしていくことができるのだ。

なぜ再生企業はこのような手順を踏むのか。再生を要する企業は、おおむね一時的にキャッシュが逼迫し資金ショートに見舞われる。その分はメーンバンクが追加融資をすることになるが、銀行はしっかりとした蓋然性の高い管理をしようとする。そのために企業に慎重な手順で中期経営計画を策定することを要請する。

しかし本来は再生企業だけではなく、一般の大企業でも経営企画部が緻密に関与することによって、経営計画の確かさを担保していくべきだろう。

いまは先の読めない時代である。中期経営計画を3年に1回つくれば安泰だとはとてもいえない。情勢の変化に合わせて、適宜見直していく必要がある。その際、A・B・Cのように蓋然性を担保する仕掛けを計画段階から織り込んでおけば、計画の形骸化を防ぐことができ、見直しもスムーズにいくはずだ。

一般企業の経営計画において、最も不足しているのはC=コンストラクションの部分である。例え話ではあるが、各営業部の部長が「前年実績から推して、これくらいにはなるだろう」とざっくり積み上げているのが実態だ。したがって裏づけに乏しい。確実な根拠を示し、ロジカルに説明できる積み上げの数字はほとんど見られない。

大事なのはここである。経営企画部のスタッフが、事業本部に対してCの根拠をきちんと求める。それによって、実効性のある経営計画をつくることができるのだ。

実は銀行が融資を決めるとき、彼らは企業がいう追加施策の部分をほとんど認めない。ミニマムに近いシナリオでしかその会社を評価していないことも多い。

会社側はそれなりの成長シナリオを描いている。しかし、確実に期待できる売り上げはもっと低いレベルだ。したがって、融資できる金額は希望の200億円ではなく70億円。このように銀行は評価する。

このとき、銀行から「70億円」と決め付けられるのではなく、少なくとも「150億円」といわせるために、経営計画の予実の乖離を防ぐべきだ。追加施策を認めてもらうためにも、コンストラクションだけではなくA=アナリシスなどの力も使って、経営計画そのものをブラッシュアップしていく努力が必要なのだ。

(構成=面澤淳市)