「菅発言」に記者団が色めき立ったもうひとつの理由
もうひとつ、記者団が色めき立った理由は、菅氏が衆院解散に反対の立場だと理解されていたからだ。
今、政府・与党内では、麻生太郎副総理兼財務相が、衆院解散・衆参同日選を主張する主戦論者。麻生氏と菅氏の間で、安倍氏が熟考しているという構図だったが、菅氏が解散容認に転じたと読み取れる発言をした。「同日選」で政府・与党内で意思統一ができたという見方が出ない方がおかしい。
通常国会の終盤には野党が内閣不信任決議案を出すことが多い。与野党が伯仲しているころは、与党議員の一部が造反するなどして不信任案が可決、衆院解散という流れになることもあったが、最近は与党が安定的に多数を維持している。不信任決議案が出ても反対多数であっさり否決されるパターンが続く。不信任決議案は、単なる野党のパフォーマンスとなってきている。
「不信任決議案が大義になる」はあまりに都合がいい
菅氏の発言は「不信任決議案を出すのなら解散するぞ」という野党に対する警告と受け取っていい。
「警告」と言っても、単純に「不信任決議案を出すな」と言っているわけではない。衆院解散となった場合、その引き金を引くのは野党になるということを通告したのだろう。
安倍晋三首相は、首相の解散権を拡大解釈し、与党にとって有利となる時に衆院選を行う傾向がある。これには「党利党略のために解散権を乱用している」との批判がついて回る。しかし「不信任決議案を出したら解散する」と事前通告することで「解散しようと思っていたわけではないが、野党が不信任決議案を出したから解散した」という理屈で解散権の乱用批判を和らげ、野党に責任を転嫁することもできる。
もっとも、安倍政権に限らず、時の政権の多くは野党が不信任決議を出しても粛々と否決し、衆院を解散することもなく国会を閉じる道を選ぶことが圧倒的に多かった。不信任決議案が出た段階で「直接国民に信を問う」として衆院解散に踏み切った例は、あるにはあるが、まれなケースにとどまる。「不信任決議案が大義になる」というのは、あまりにも都合のいい理屈ではあることは指摘しておきたい。