「オトちゃんルール」は、理想の社会そのもの

例えば、社会的に弱い立場になりやすい女性たち。男社会で差別されている女性がいたら、本人が主観的な声をあげるより、周りがサポートしてあげる方が状況を良くするかもしれません。

「体力がなくて困っている」という女性がいたら、同僚が、人事部にかけあって新しい時短勤務制度をつくってみるのはどうでしょうか。あるいは、バレンタインの義理チョコにウンザリしている女性社員がいたら、男性社員が率先して「義理チョコ廃止、賛成!」と宣言してみてはどうでしょうか。

立場の弱い人、不利益を感じている人が、みずから声をあげるのはとても難しい。だからこそ、周りにいる人たちがいつも、重要な鍵を握るのです。

手塚 マキ『裏・読書』(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

作られたルールに従うだけでなく、時にはルールを生み出す側になると、見える景色が変わります。乙さんの同級生たちは、幼い頃からルールを疑い、ルールを生み出し、ルールを楽しんできた人たちです。冒頭で、彼はルールを作るのがうまいと書きましたが、きっとそれは、彼がむしろ、周りの人たちから学んできた姿勢だったのかもしれません。

彼と共に過ごした周りの人たちは、自分が見ていたのは健常者にとっての限定された「社会」であることに気づき、そのうえで、乙さんを障がい者の「社会」へ分断するのではなく、いっしょに生きていける、乙ちゃん学級の「社会」をつくりあげていきました。それは、理想的な形だと僕は思うのです。

いつでも自分なりの「社会」を定義し、その中でルールを作り、助け合う。

少し前の彼は、ソムリエの僕にワインを教えてほしいと相談してきたので、僕は定期的にワイン会をひらいていました。でも1年ほどたつと、いつの間にか彼がテーマに合わせたワインを準備し、教える側に回るようになりました。相変わらず、仲間を先回りして楽しませてくれるリーダーです。

手塚 マキ(てづか・まき)
ホストクラブ「Smappa! Group」会長
1977年生まれ。中央大学理工学部中退後、歌舞伎町のナンバーワンホストを経て独立。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げ、NPO法人「グリーンバード」理事。2017年「歌舞伎町ブックセンター」をオープン。近著に『自分をあきらめるにはまだ早い[改訂版]』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『裏・読書』(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
(写真=時事通信フォト)
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