研修後のコンパで社員の心が1つに

稲盛さんの講義の後には、コンパが始まる。そこでは、講義内容に関する質疑は3分の1ぐらい。残り時間は、缶ビールを片手にしてのよもやま話。最初こそぎくしゃくしていたものの、回を重ねるごとに雰囲気は良くなった。稲盛さんは自分の意見を率直に述べる幹部を評価した。なぜなら、そこに真のやり取りが生まれるからだ。

確か3回目のコンパの席。企画畑出身のエースと呼ばれる人が手を挙げた。彼は「私がしてきたことは間違っていた。もっと早く稲盛さんの教えを学んでいたら、JALは倒産することはなかっただろう」と発言したのである。リーダー教育の雰囲気は一気に変わっていった。

一方、私はJALフィロソフィを年末には完成させようと考えていた。リーダー教育を受講した幹部10名を選抜。京セラフィロソフィを勉強してもらい、議論を深めることからスタートした。だが、当初彼らの大半は否定的だった。JALは、それまで何度も意識改革に取り組み、同じような施策も進めたが、効果はなかった。だから「そんなものには意味がないのでは……」という。そこで私は「以前の取り組みとはまったく違う」と主張した。借り物ではない、自分たちの言葉でフィロソフィをつくり、自分たちで教育を進めれば必ず効果があるはずだと。

JALフィロソフィといっても特別なものではない。稲盛さんが常に話している「全従業員の物心両面の幸福を追求する」を理念とし「美しい心をもつ」とか「常に明るく前向きに」等、人間として普遍的な生き方を書き込んで全体を構成した。

こうして自前のフィロソフィが出来上がった。教育を始めたときの出席率は99%超。まるで乾いた砂が水を吸い込むように、フィロソフィは全社員に浸透していった。

稲盛さんの社員との対話で印象に残っていることは、絶対にネガティブな発言をしないということである。JALの社員は「倒産をして、私たちは全否定された」とうつむいてしまっていた。とはいえ、現場は一生懸命だったし、大変な苦労もしている。稲盛さんは、現場を訪問しては、パイロットやキャビンアテンダント(CA)、整備、貨物、そして地方空港のカウンターの社員らに対し、それまでの努力に感謝するとともに、「再建に一緒に取り組んでいきましょう」と励ました。そのような行動と言葉は、彼らに誇りを持たせ、前向きな姿勢に変えていった。