※本稿は、下地寛也著『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)を再編集したものです。
「正直者で、真面目で、いい人」すぎる
プレゼンで、しっかり準備をしているし、何もおかしなことは言っていない、それどころかいい提案をしているのに、なぜか思うようにYESがもらえない人がいますよね。私の長年の観察からいうと、そういう人は、「正直者で、真面目で、いい人」な可能性が高いです。これはいったいどういうことでしょうか?
まず、正直者の人に知ってほしいことがあります。それは、人間は無意識に、「得すること」を選ぶより、「損すること」を避けようとする、という事実です。「損失回避の法則」という心理学の法則です。たとえば実験によると、100ドル得たときの嬉しさより、100ドル失ったときの悲しさの方が2倍も強いと言われています。
つまり、「あなた、これをすると100ドル得しますよ」と訴えかけるよりも、「ちょっとあなた、これをしないと100ドル損しますよ」と言われた方が、聞き手に強いインパクトを与えることができるわけです。
ためしに、あなた自身が「あれは得したなあ」というエピソードを考えてみてください。…いくつ思いつきましたか? では次に、「あれは損した」というエピソードを考えてみてください。「もっと安く売っているのを知らずに高く買ってしまった」「ある情報を見落としていたために、間違った選択をしてしまった」という経験は、いくつか思い出せるのではないでしょうか? 損した記憶というのは、得した記憶より強く残るものなのです。
正直に話しすぎると相手の心を動かせない
もうおわかりですね。プレゼンでも「これをすると得ですよ」と言われると「ふーん。まあ、いいか(面倒くさいし!)」と思いますが、「これをしないと損をしますよ」と言われると、にわかに「なに? なに?」と聞く気になります。
プレゼンでYESをもらえる人の決めゼリフは、「これで1日200円お得になります」ではなく、「これを知らないと1日200円、損しているかもしれません」なのです。正直者の方は間違いなく、「これで1日200円お得になります」と言っています。
他にも「この方法を知らずに、非効率なやり方で損をする人が多いんです」とか、「今日を逃すと50%オフのサービスは受けられず損ですよ」といった言い回しもできます。いつもの表現を見直して、決めゼリフを「知らないと、やらないと、損」の方向に変えてみてください。