「令和」に日本企業が、取り組むべきこと

こうして平成30年間の企業経営を振り返ると、日本的経営が間違っていたのではなく、トヨタのような「厳しい日本的経営」を実行できたかどうかが重要だったように思います。これを不等式で表すと、次のようになります。

ぬるま湯の日本的経営<厳しい欧米型経営<厳しい日本的経営

日本企業の今後の課題は、成長への投資です。自己資本の積み増しは、経営が不安定だった頃はやむをえなかったと思いますが、“健康体”に戻った今は、成長が見込める海外にもっと投資をするべきです。そこで日本企業はM&Aをしがちですが、失敗するケースが多い。むしろ、グリーンフィールド(自分で一から投資すること)で、子会社をつくり苦労しながら成長すべきです。

経営者にそういう話をすると、「我が社にはまだ、海外で活躍できる人材が育っていない」とよくいわれます。しかし、そういう人材を育てるには、実際に現地に赴き、失敗しながら育つというプロセスしかありません。

日本企業は70年代から80年代にかけて、VTR、自動車、半導体などの分野で世界を制覇しました。その秘訣は「ラーニング・バイ・ドゥーイング」です。投資をし、苦労しながら工夫を重ねて技術を蓄積していくことによって少しずつ力をつけ、世界制覇を成し遂げたのです。海外投資も同じです。投資をし、現地での経営で苦労を重ねることで、技術も経営ノウハウも蓄積され、それが次の海外展開への足掛かりとなります。

元号の変更を機に、「失われた20年」の負の記憶から抜け出し、さらなる成長への一歩を踏み出しましょう。

伊丹敬之(いたみ・ひろゆき)
国際大学学長、一橋大学名誉教授
カーネギーメロン大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授などを経て、2017年9月より現職。近著に『平成の経営』『なぜ戦略の落とし穴にはまるのか』など。
(構成=増田忠英 写真=時事)
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