新興国の経済成長が長続きするようになったもう一つの理由は、先進国の富裕層のホームレスマネーが新興国に向かったことである。8000兆円のホームレスマネーは今や3つのところにしか向かわない。将来性豊かな新興国の「通貨」か「株式市場」か「インデックス」(市場の指標や指数に基づく取引)。そしてその組み合わせである。

金が流れ始めると株が高くなり、為替も強くなる。バブルがゆきすぎたと思えばホームレスマネーは逃げ出すが、その寸前までは前向きに入ってくる。しかも、それらの資金は、ODA(政府開発援助)のように政治家のポケットに吸い込まれることはなく、ダイレクトに市場を通して民間企業に入っていく。昔と違って、政治とは関係なく、健全な資金が健全なところに回るようになったのだ。

これは重要なパラダイム転換だ。なぜなら歴史上初めて、搾取先ではなく、投資先として系統的な資金が新興国の一般株式市場に流れ込むようになったからである。換言すれば、この5年ぐらいの間に顕著になってきたグローバル経済の新しい現象であり、資金の流入が新興国に続く限り、その発展は止まらないことを意味する。

一昔前なら、中国の繁栄はアメリカでは脅威論として捉えられた。ところが今は礼賛論に様変わりしている。もっと発展してくれとアメリカ人はいう。なぜなら、彼らも中国株などに投資しているから。アメリカ人が中国の発展に便乗して資産を増やそうとする時代なのである。

一党独裁の政治体制が中国のウイークポイントであり、国家崩壊のカントリーリスクを説く声は依然としてある。しかし、中国は崩壊したほうが実は強い。地方がそれぞれ自由に経済成長を競うようになったら、そのエネルギーは凄まじい。今の中国はいわば「コングロマリット・ディスカウント」の状態なのだ。

これからの10年、世界化戦略なきドメスティックな方程式や成功モデルが頭にこびりついている日本の企業は確実に敗者になる。新興国の新しい動きを見て、世界のお金の流れを見て、成長余力を持った国の若い世代が豊かになっていくそのプロセスに乗っかる。成長のチャンスがあるところに経営資源をシフトする。日本から飛び出して勝負する――。経営者にとって、あるいはサラリーマンにとって、世界で勝負できる実力をつけることは生き残るための大前提となってきた。

(小川 剛=構成  AP Images=写真)