「英語は僕にとって音楽なんです」

これらの本で英語の文法を一通り勉強した後、中山さんが取り組んだのが英語で書かれた文法解説書、レイモンド・マーフィーさんの『English Grammar in Use』だ。「いきなりこの本を読んでも難しくて理解できませんが、最初に日本語で文法を勉強してからだと全然違います。例えば日本語で完了形の説明をされても、正直全然理解できませんでしたが、英語で学びなおしたらすとんと理解できました。こういう『理解できた』瞬間があると、文法の勉強も楽しくなるし、頭に入ります」と中山さんは説く。

「大学受験や資格試験合格のためではないので、ひっかけ問題に答えられるようになる必要はない。話せるようになればいいのですから、英文法はここまでやれば十分」

次に中山さんが力を入れたのが発音だ。「僕がもし英語の先生になるんだったら、まずこれを買うよう薦めます」というのが、松澤喜好さんの『英語耳』。「もともとミュージシャン志望だったこともあって、英語は僕にとって音楽なんです。かっこよくしゃべれるようになりたい。そうすると発音はとても重要です。アルファベットを覚えたら、まずこの本で発音のしくみと発音記号をしっかり頭に入れる。これを最初にやらないと、結局後で苦労することになると思います」

同書にはCDがついており、ネーティブの発音を聞くことができる。中山さんはこれを聞きながら本に書いてある発音を確認して学んだ。また、お手本として入っていた「アメージング・グレース」などの歌を、CDのまねをしながら歌い、録音して再生して聞いてみるという練習も繰り返しやったという。

「あまり意味がわかっていなくても、『おお! こうやって発音するとネーティブみたいだ!』となって楽しい。これを学習の初期にしっかりやったのが、後のスピーキング力につながりました」と振り返る。

ここまで聞くと、かなり順調に、ストイックに英語を学んできたように聞こえるが、実は「最初の1年は、勉強しては『こんなの頭に入るわけがない。英語なんて話せるようになるわけがない』と挫折して、またしばらくして勉強を始めて……というのを繰り返していました」と語る。文法を学び、単語を暗記しても、一から英語で文章を組み立てるのは、かなり高度な技術が必要。たまに外国人客を乗せても、全然英語で話せずにめげてしまっていたという。

そんなある日、テレビでニュースキャスターが外国人をインタビューするときに「Let me introduce myself(私の自己紹介をさせてくださいますか)」と話し始めたのを聞いた。「『これは使える』と思って丸暗記し、次の乗務で外国人のお客様を乗せたときに話したら通じてほめられたんです。それで、『自分で文章を組み立てるんじゃなくて、使えそうなフレーズを丸暗記すればいいんだ』と気が付いた」