そこから一貫して磨かれてきたダイニチの高度な精密加工技術が生かされているのは、カテーテルや内視鏡(腹腔鏡)を使った検査・手術・治療の最先端の現場である。

極小の穴を開けるマイクロドリル(写真上)。微細な製品の数々。(同下・左から)尿管用の内視鏡のキャップ、カテーテルの繋ぎの箇所や先端の部品等々、医療用機器関連が多い。

かつては患者の胸部・腹部を10センチ、20センチと切り開いていた外科手術も、今はカテーテルや内視鏡の挿入のために10ミリ、20ミリの穴を開けるだけ。患者の負担は大幅に軽減された。大動脈弁や僧帽弁の人工弁への置換や、バイパスの手術などは開胸手術が必要だが、その手術もセンサー技術、画像技術などを駆使した各種医療機器の発達に助けられている。ダイニチはカテーテルや内視鏡関連だけでなく、脳神経外科の手術で使う「超音波メス」の加工技術も得意としている。

外科医や内科医の技術・技能は、こうした医療機器の進化とともに格段に進化してゆくが、それは医療機器を構成する無数の部品を担うダイニチのような部品メーカーの、素材の加工能力の向上があってこそだ。

日本をはじめ米国、中国の特定の医療機器メーカーからの受注生産が主で、それ以外にも半導体製造装置の部品や航空機、自動車、空圧・油圧部品等、さまざまな精密加工にも取り組んでいる。基本はやはり「穴を開ける」技術。さらにはその穴の内面をミクロン単位の公差でつるつるピカピカの表面に仕上げる高度な技術を生かす。

あえて買収されて、本筋に注力する

そんなダイニチは資本金1550万円、従業員23人の中小企業だが、売り上げは4億2166万円(17年12月期)。賃金はあえて記さないが、大手と比べても遜色ない。

ただ、以前はそうではなかった。

現社長の井上寿一氏は、大阪の部品商社・井上特殊鋼の社長を兼ねる。井上特殊鋼は未上場の中堅企業だが、アセンブリメーカーとしての高い技術力と、マーケティング力のない町工場とのネットワークを編む組織力とを併せ持つ独特の強みがある。

利益の計上に四苦八苦。一般向けに作ったビールジョッキなどの自社製品も売れゆきが芳しくなかったダイニチは12年秋、その井上特殊鋼に買収された。