「老いて学べば、即ち死して朽ちず」の精神

かつては晩学をバカにする風潮もあったが、それは間違いだと外山さんは言う。

「江戸時代の儒学者・佐藤一斎が残した『老いて学べば、即ち死して朽ちず』という言葉がありますが、まさにこれです。いい年をして、新しいことを始めるなんて、と晩学を否定したら、体は生きているのに、心と頭がお休みになってしまう。上達するかどうかは別問題。進取の精神を発揮して、新しいことを試みる。気持ちの赴くまま何にでも手を出し、努力してみる。そうした生き方が老人の心意気なのです。

ただ、私の個人的な意見を言えば、取り組むのは『世の中の人がやっている』ものはダメ。人まねは面白くない。以前、ひょんなことから皇居の周囲を早朝にひとりで散歩していました。無心で歩いていると自分の頭がキレイになっていくのがわかる。嫌な感情が消えていき、いろんなアイデアが次々と湧き上がってくる。30分も歩けば、新しい自分に生まれ変わった感覚でした。当時はまだ、皇居の周囲を散歩する人はあまりいなかったけれど、ウオーキングが流行となって歩き始めた人々は『長生きしたい、健康のため』と余計なことを考えて仲間と集団で歩いている。歩くことはもっとクリエイティブなことだと私は思っています」

仲間との会話の中に、刺激や新発見もある

「人と一緒にやるなら、自分の仕事とは異業種の人を集めて全部で4人くらいの仲間をつくり、定期的に話すといい。同じ業種の人と集まって喋ったって、全然面白くない。異業種出身なら会話の中に刺激や新しい発見もある。そうした時間が、知的に老いるためには必要です。

定年が65歳とすれば、残りの人生は20~30年。その時間を孤独でつまらないものとするか豊かなものとするか。それは自分にかかっています」

そう語る外山さんが今なお取り組むのは執筆活動。2018年末にも新刊を出し、ますます意気軒高だ。

外山滋比古(とやま・しげひこ)
お茶の水女子大学名誉教授
1923年、愛知県生まれ。専門の英文学をはじめ、言語学、修辞学、教育論、意味論など広範な分野を研究し、多数の評論を発表。著書に『思考の整理学』(ちくま文庫)、『知的な老い方』(だいわ文庫)、『忘れるが勝ち!』(春陽堂書店)ほか多数。
(撮影=榊 水麗)
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