その場所に「1年と1日」いられれば、仲間になれる
どこかの領地からその自由都市へ逃げてきた人がいるとします。その人が都市の一員として市民権を与えられるには1つのルールがありました。それは「1年と1日」その都市にいるということです。その期間いることができれば、前にいた都市の封建領主が連れ戻しにやって来てもコミュニティが守ってくる。
でもどうして、「1年と1日」なのか。僕が考えるに、結局、その地域に貢献できない人は1年もいられないからではないかと思います。ある地域に別の地域から入ってきて居場所を見つけるには、なんらかの価値をその地域にもたらさなくてはなりません。
たとえば、前にいた都市でパン屋だった人は、逃げてきた自由都市でおいしいパン屋さんを開ければ喜ばれるかもしれませんが、すでにパン屋が何軒もある都市だったら別の役割を見つけなくてはなりません。「あの人がいるといいよね」「あの人がいなくなると困るよね」という存在になれば、自然と居場所が見つかります。1年以上いられたということは、その都市での役割が見つかったという目安になるのです。
「顔の見える規模」の経済圏で暮らす
自由都市の話は、地域経済を考えるヒントにもなります。僕の場合も葉山になじむほどに、缶ビール1本でも大手スーパーではなく地元の商店で買うことが増えてきました。どうせなら地元にお金を落としたほうが、地域ネットワークの一部になれる気がするからです。
地方創生の動きが活発化するなか、経済ネットワークを意図的に小さくすることで新しい地域のかたちをつくろうと、葉山のお隣の鎌倉でいままさに進められているのが、面白法人カヤックの柳澤大輔さんが提唱する「鎌倉資本主義」です。僕も鎌倉に近い葉山在住ということもあって、2017年のコンセプト立ち上げのときからブレストに参加するなどしてかかわってきました。
柳澤さんが「鎌倉資本主義」で実践しようとしているのは、鎌倉で働く人たちが朝、昼、晩利用できる「まちの社員食堂」や鎌倉にある会社が共同運営する「まちの保育園」のような地域オリジナルコンテンツによって、地域の人同士がゆるやかにつながりながら幸せになっていける世界です。経済活動の状況を示す指標であるGDPに代わる、新しい「幸せの指標」を見つけ出そうとしているのが特徴です。