1994年の法改正で、学校での集団接種がなくなった
2016年の夏に関西国際空港などで次々と感染が広がり、はしかの集団感染を引き起こしている。その前の流行は2007年である。10代から20代の若者の間で流行して大学や高校が相次いで休校する騒動があったのを覚えている方も多いと思う。
この2007年の流行では、次のようなことが流行の背景にあると専門家が指摘していた。
ひとつがはしかに限らず、すべてのワクチン接種が1994年の予防接種法の改正で「義務」から任意の「勧奨」に切り替わり、学校などでの集団接種もなくなった。その結果、はしかのワクチンを接種していない子供が増えた。
もうひとつが麻疹ワクチンの普及にともなって感染者が減った結果、自然感染する機会が少なくなり、ワクチン接種後の自然感染で十分獲得できていた免疫が得られなくなったという指摘である。
フィリピンやベトナムなどからウイルスが侵入した
厚労省は2006年度から、1歳時と小学校入学前1年間の2回に分けて定期接種する制度を始めた。また2007年の流行を受けて、2008年度から2012年度の5年間に限り、中学1年生と高校3年生に2回目のワクチン接種を公費でまかなうようにした。
この作戦はみごとに成功した。日本は「はしかの輸出国」と非難されたこともあったが、予防接種を推し進める作戦によって2008年に1万人以上もいたはしかの患者が7年後の2015年には過去最少の35人にまで激減し、WHO(世界保健機関)から土着の麻疹ウイルスが存在しない「排除状態」にあると認定された。
ところが、今年の流行である。厚労省によると、今年の流行は旅行者が渡航先のフィリピンやベトナムなどの東南アジアで感染し、帰国後に発症するケースが多いという。彼らが日本国内に感染を広げたとみられている。
29歳以上の人は感染するリスクが高い
はしかの流行は全国的に広がっている。なかでも多いのが大阪府で、厚労省によれば、3月10日現在、106人もの患者が出ている。たとえば2月11日以降、大阪府阿倍野区の近鉄百貨店本店のバレンタインフェアの会場で接客していた店員とお客ら20人以上が次々とはしかを発症する集団感染が起きた。この感染では東南アジアで流行しているタイプの麻疹ウイルスが検出された。
東南アジアに麻疹ウイルスが存在し、はしかが流行していることはしょうがないとして、東南アジアで感染したり、その感染者からうつったりするというのは、ワクチンをきちんと接種して免疫を作っていないからである。
2006年度から制度が改められた結果、1990年4月以降に生まれた人は、基本的にワクチンを2回接種している。だが1990年3月以前に生まれた人、つまり現在29歳以上の人で、自然感染での免疫が獲得できていない40代以下の人は、はしかに感染するリスクが高い。