「支援員は誰でもできる」はとんでもない誤解

放課後の子どもの生活と遊びへのかかわりは、特別に専門性がなくても意欲があれば誰にでもできるように考えられがちですが、それはとんでもない誤解です。

学童保育が対象とする子どもたちは、それぞれに発達段階の違う異年齢集団であり、学校教育のように同学年ではない難しさが伴います。また現在どの施設も抱えている施設空間の狭さと設備条件の不十分性(体調の悪い子どもがゆっくり静養するスペースがないなど)の中で、元気あふれる子どもたちに日々関わらねばならないのです。

さらに今、「児童福祉法」や「放課後児童クラブの運営指針」には「子どもの権利条約」の理念や精神に沿った関わりをすることが明記されており、一人ひとりの子どもの声をよく聞き、活動への子どもの主体的な参加を実現し、子どもたちの発達を保障するための働きかけが必要となります。 学童保育は、単なる放課後の居場所にとどまらず、子どもたちの健やかな成長・発達(「健全育成」)を保障する場となることが求められており、支援員の専門性の向上にむけての研修は不可欠です。

狭い教室に大人数を収容している「放課後子供教室」もある

放課後の子どもへの施策としては、文部科学省による、学校の空き教室を利用し地域のボランティアの協力を得た「放課後子供教室」づくりも進められています。しかし「放課後子供教室」は、大人によって与えられた活動プログラムに参加する場所であり、「学童保育」の代替にはなりません。

「学童保育」は、子どもの生活(暮らし)を保障する施設であり、用意された活動メニューを子どもが利用する場所ではなく、遊びの内容や活動を子ども自身が主体的・自治的につくり出す場所です。また、遊びや活動など「何かをする」だけでなく、おやつを食べたり、休息をしてゆっくりくつろいだり「何もしなくてもよい時間」が保障された場所なのです。

家庭に代わる暮らしの場所ですから、当然そこには、子どもたちの生活状況や想い・願いを系統的につかみ、働く親と連携し、子どもの様子や子育てを理解し合い、日々子どもたちに寄り添える複数の専任支援員が配置されることが不可欠です。

「学童保育」は国の基準で「おおむね40人以下」とされていますが、「放課後子供教室」には、必ずしも上限がありません。そのため「全児童対策」の名のもとに、「学童保育」に入れなかった子どもも含めて、100人を超える子どもを受け入れているところが存在しています。狭い教室に多数の子どもを収容しているために、子ども同士のトラブルや、けがの心配もあります。そこに通う子どもたちもすべてが毎日来る子どもだけではありませんし、大人の支援員も常勤ではないので、子どもの名前をおぼえることすらできにくいのです。

兄弟姉妹も少なく、異年齢のかかわりが少なくなり、安心して外遊びや集団での遊びができにくくなった今日の子どもたちの状況を考えると、すべての子どもたちにとって、「学童保育」のように子ども主体の遊びと生活(暮らし)が保障される安心の居場所が必要な時代になっているのではないでしょうか。

「学童保育」は、共働きの親の子育てにとって不可欠な施設であるにとどまらず、放課後も日本の子どもたちが健やかに成長発達するうえで、必要な福祉と教育と文化をつなぐ新しい子育ての場のモデルでもあるのです。

増山均(ましやま・ひとし)
早稲田大学名誉教授 日本学童保育学会代表理事
1948年栃木県生まれ。東京教育大学文学部卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。1982年日本福祉大学講師、助教授、教授を経て、2001年より早稲田大学文学部教授、2018年より、早稲田大学名誉教授。日本学童保育学会代表理事。『子ども白書』(日本子どもを守る会編)元編集長。専門は、社会教育学、社会福祉学。著書に『アニマシオンが子どもを育てる』(旬報社)、『子育て支援のフィロソフィア』(自治体研究社)など。
(写真=iStock.com)
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