複数の店員が「入れちゃえ入れちゃえ」を合わせて唱え、乳白色のビニールが膨れあがり、「はいよー!」と快活に客へ手渡す。店頭の光景を遠巻きに見ていた記者だったが、気がつくと光の角度で色みが変わるブルーサファイアを右手に、チョコレート菓子1袋を左手にぶらさげていた。売り込む調子のよさに、思わず購入してしまうのだろうか?
実演販売士の第一人者・吉村泰輔氏の著作『アキバ発!「売の極意」』によれば、販売する際は、五感の中でも特に情報量の多い視覚・聴覚・触覚に対して、万遍なくアプローチするように心がけるという。売りたい商品の機能を見せつけることで「目」に、説明の中で「便利。なのに、とても安い」といった引っかかる接続詞を入れることで「耳」に、そして商品に触れてもらうことで「体」を刺激するという技術だ。まさにチョコレートの叩き売りも、この3要素を兼ねそろえていた。抑揚の利いたかけ声で「耳」を、袋に詰め込む行為で「目」を、受け取ったときの重みで「体」に訴えている。
そして何より、アメ横の買い物には新鮮な感覚があった。ネットで複数のECサイトを閲覧し、1円でも安い商品を探す経験が当たり前になった今、「とにかく安い」という骨太の主張。さらにそれを生身の人間に近距離から訴えられるのは、売買という行為が人と人の間で成立することを改めて実感させてくれる。
後に購入したチョコレートを実勢価格で調べたところ、約2000円。得をした感慨以上に「アメ横に行って買い物をした」という体験が、まるでテーマパークに行ったような興奮と余韻を残すのだった。
私の必殺トーク術:「2万円の物が今から10分だけ1000円!」
(撮影=金子山)