ネット右翼も「乗り換えていない」

ところが冒頭にあげたネット右翼の「ソフトバンク忌避運動」は、正しく「言うは易く行うは難し」の典型であり、客観的に見て明らかにネット右翼でありながら、そして「ソフトバンク忌避運動」の最中にありながら、なかなかソフトバンクから他の国産キャリアに乗り換えるのを躊躇するネット右翼が、実際には大勢いたのである。なぜかというと、携帯電話のキャリア移動の手続きが面倒くさかったり、契約してまもなくで解約金を払わなければならなかったりと、理由は千差万別である。

その時代はまだLINEでのやりとりが普及しておらず、ケータイのメールアドレスをつかって交信していた。だから @softbank のメールが出ると、「あー、○○さん朝鮮の携帯使ってる~、早く変えなさいよ~」と突っ込みが入るが、「いやー、2年契約だから……。あと○カ月したら乗り換えよっかなーって思ってる」などと、お茶を濁して結局、キャリア乗り換えなどしないのである。

つまりネット右翼は、ネット上で強健のごとく「朝鮮」「反日」「侮日CM」とソフトバンクを呪詛して不買運動を展開しておいて、結局のところ面倒くさい契約変更は嫌なのである。わざわざ代理店に赴いて煩雑な乗り換えの手続きをするのが嫌なのである。本当に「ソフトバンク忌避運動」に賛同して、解約金や契約手続きの面倒くささを超越して、「反日だから」という理由でソフトバンクを見限ったのは、ネット右翼の中でもかなり狂信的な人間であり、実際の数はほとんどいないのではないか、と私は見ている。所詮、ネット右翼のかけ声は口だけなのである。

亡霊のように姿を現すデマと陰謀論

「ソフトバンク忌避運動」は、ネット空間の中で孫正義氏とソフトバンクに対する、消すことのできない不当な妄想による中傷とデマだけを残して現在は沈静化している。しかし先に述べたように、惑星の大気循環のように出ては消え、消えては入るネット右翼の世界の中で、新規参入者はこれらソフトバンクの一連のデマがデマであるという免疫がなく、そのままネット上のキャッシュを信じ続けることになる。

ソフトバンクにまつわる陰謀論やデマや妄想は、検索すれば現在でも大量に、まとめサイトやユーチューブに蓄積されている。ソフトバンクや孫正義氏に関わるニュースが一度盛り上がれば、「白い犬の妄想」もまたぞろ亡霊のように持ち上がってくるかもしれない。そしてとうに決着が付いた妄想を、「ネットDE真実」として初めて知ったと錯覚したネット右翼の新規参入者が、再びソフトバンクに牙をむくとすれば、ソフトバンクの応対係はこのような不当な要求や圧力に恒常的な人員を割かなければならない。

いかにその数が小でも、無碍にするわけにはいかないのが企業側の辛いところだ。ネットの中に傷跡のように残ったソフトバンクへの誹謗中傷は、ネット空間と検索がある限り、永遠と輪廻の輪のように残置し、ソフトバンクへ無駄な労力と出費と、もろもろのコストを割かせる、本来あってはならない宿痾として機能し続けるのである。

事実、昨年の通信障害騒動で、デマや陰謀論は懲りずに再び亡霊のように姿を現した。ためしに、「ソフトバンク、反日、犬」でリアルタイム検索を欠けてみてれば分かる。読めば呆れ返る、くだらない論を平気でぶち、企業の名誉を毀損する。ネトウヨの毛質は呆れるばかりである。

古谷経衡(ふるや・つねひら)
文筆家。1982年生まれ。保守派論客として各紙誌に寄稿する他、テレビ・ラジオなどでもコメンテーターを務める。2012年に竹島上陸。自身初の小説『愛国奴』(駒草出版)が話題。他の著書に『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む「極論」の正体』(新潮社)、『「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす』(イースト・プレス)他多数。
(写真=時事通信フォト)
【関連記事】
ネトウヨから"反日認定"サントリーの受難
セブンが勝てない「最強コンビニ」の秘密
富裕層は「スマホ」と「コーヒー」に目もくれない
韓国軍「日本には何をしてもいい」の理屈
歴史が予見する"北朝鮮はまた必ず裏切る"