CMプランナーが犬を好きなだけだった

2007年の段階で、このCMを手がけたCMプランナーの澤本嘉光氏(1966年、長崎県生まれ。1990年に電通に入社)が、毎日新聞のインタビューにこう答えていることで、この「白い犬の妄想」はすでに解決済みであった。

<お母さん、息子、娘は人間なのに、お父さんはなぜか犬。奇想天外な家族の設定で人気のソフトバンクモバイルのCM「白戸家」シリーズを手がけた澤本さん。お父さん犬は、娘に「なぜ犬なの?」と尋ねられても、「お前にはまだ早い!」と一喝する。「深くは考えなかったけど、犬は説教したり相談相手になってくれる気がして。お父さんが犬だったらいいなと思った」と澤本さん。何となく、納得してしまった。(私と犬の約束:CMプランナー・澤本嘉光さん)

(中略)澤本さんの心に残る一匹は雑種のベル。子どものころ、毎夏訪れた北海道余市町の母の実家で飼われていた。「久しぶりに会うとほえて。でも、すぐに思い出し、クゥンクゥン鼻を鳴らして喜んでくれた」と振り返る。餌やりや犬小屋の掃除は澤本少年の役目。散歩が大好きで、握った鎖を引っ張って駆け回った。怒られたり、寂しくなると、ベルの頭をなでた。夏休み中「1カ月だけの飼い主」だったが、「ベルが忘れられないのは、会えなかった11カ月の間、深い喪失感を感じていたからかもしれません」。>
(「毎日新聞」2007年11月14日付より)

と語っている。幼少時代に大好きだった犬の残像をCMで使ったと告白しているのである。つまり澤本氏は犬が好きで、その嗜好をしてCMにも犬を起用した。それがたまたま大ヒットした――、という身も蓋もない展開なのである。「韓国」も「反日」も「朝鮮半島での侮蔑」も全く何の関係もない。まさに「白い犬の妄想」こそが、ネット右翼から沸き起こったいわれなきソフトバンクへの呪詛と攻撃であった。ここまでくると完全に意図した伝説、陰謀論の類いである。

ネット右翼の構成は常に入れ替わっている

ネット右翼は、その総数約200万~250万人(古谷経衡「『ネット右翼』は日本に何万人いるのかを測る、ひとつの試み」)。しかしその構成は、惑星の大気循環のごとく常に入れ替わっている。すなわち、2009年~2011年当時の事を知るネット右翼は、ネット右翼から離脱しているか、少なくともネット右翼の前衛としての機能を有してはいない。

よって現在、ネット右翼の中で「白い犬妄想」は過去のモノとして忘れ去られ、「ソフトバンク忌避運動」というものを見聞することはほとんど無くなった。

そもそも、ネット右翼の「ソフトバンク忌避運動」に具体的効果があったのかというと全く疑問である。

TAC(一般社団法人 電気通信事業者協会)によると、2008年12月末のソフトバンク契約数は約1,999万。それが、4年後の2012年12月末には約3,132万回線と1.5倍になっている。ちなみに最新データ(2018年12月末)におけるソフトバンクの契約数は約4,084万。

このように順調に契約数は延びているし、もし200万ネット右翼の半分の100万人=100万契約が不買(非契約)運動をしたとしても、それはたかだか総契約数の2.5%程度にすぎないのである。