2015年に課税最低限が引き下げられたことで、相続税の申告義務の生じるケースが増えた。元国税調査官の大村大次郎氏は、「誰にでも相続税がかかってくる可能性がある。『うちには関係ない』と考えないほうがいい」と指摘する――。

※本稿は、大村大次郎『税務署・税理士は教えてくれない「相続税」超基本』(KADOKAWA)を再編集したものです。

不動産も含めた相続資産が3500万円を超えると、相続税が発生する可能性が出てくる。さまざまな控除も用意されているが、きちんと申告しなければその控除も適用されない。(写真はイメージです。写真=吉野秀宏/PIXTA)

「庶民だから考えなくていい」は大誤解

「自分は“庶民”だし、親は高額所得者でもなかったから、相続税がかかることはない」。そう思っている人も多いでしょう。しかし、ここで強調しておきたいのは、相続税というものは「誰にでもかかり得る税金だ」ということです。

2015年の税制改正により、相続税は3600万円を超える相続資産があればかかる可能性が出てきました。それまでは、最低でも6000万円を超える相続財産がないと相続税はかからなかったので、これは大きな違いです。しかもここでいう「相続財産」には不動産なども含まれますので、たとえば都市部にちょっとした家を持っているような場合は、すぐに相続税の課税対象になってしまうのです。

相続税というのは、「所得税の高額納税者」の遺族にだけかかってくる税金ではありません。税務署が所得税の高額納税者だけをチェックしておき、その人が死亡したときにだけ相続税を課す――というようなものでは決してないのです。

相続税は、その人の生前の“収入”とはまったく関係がありません。その人が死亡したときに持っている資産の額だけが、課税の基準になります。そのため、普通のサラリーマンの遺族にも、条件によっては相続税がかかってくることになるのです。

たとえば、所得税をまったく払っていないような、少ない収入しかなかった人であっても、コツコツお金を貯めていて、それが一定以上の金額になっていれば、その人の遺族は相続税を払うことになります。また昔からオンボロな小さな家に住んでいたとしても、地価が上がり、持ち主が死亡したときにかなりの高額になっていたりすれば、その遺族は相続税を払う可能性が出てくるわけです。