しかし、社員として定着する元受刑者は1~2割だという。入社一日で行方をくらます人も珍しくない。

「定着するためには心を開いてもらうことが大事」と語るのは、社員寮を管理する北厚也寮長。北寮長もかつて警察にお世話になった1人。「飲みニケーション」を大切にしているという。

「社員から『話したいことがある』と言われたらまず飲みに誘います。べろべろに酔って本音を語ってすっきりしてもらうのが一番。本人が言いすぎたと後悔しないように私も酔っ払って『きっと覚えてないだろう』と思わせるくらいがちょうどいいんです」

小澤社長も一緒に酒を酌み交わし、社員一人ひとりに寄り添うことも欠かさない。「余命3年」の中で、仕事以外にやりたいことはないのだろうか。

「いまを一生懸命生きようと思っているので、もう十分面白い」

何度聞いてもその言葉にブレはない。一方で黙っていられないこともある。

「当社だけでなく、これからいろんな会社が出所者雇用に取り組むためにも社会を変えていかなくてはなりません。そのために、北海道から法務局へ何度も足を運んで意見書を出しています。助成金制度があっても当社でさえ最高額は1度しかもらえておらず、まったく足りていません。国の援助や優遇措置を充実させてほしいと思います」

しかし、その成果は法務大臣に直接会えるようになった程度で、具体的な動きは見られない。意見書には「私がやめたら再犯が増えます(余命3年)」と書かれてあり、焦りがにじむ。それでも独立した元社員が小澤社長に倣って出所者雇用を進めるなど、取り組みは広がりつつある。

「刑務所にいると一人当たり年間300万円の税金がかかるといいます。出所して働けば税金を払う側になるんです。社会のためにも個人のためにも出所者雇用に力を入れてほしい」

(撮影=横溝浩孝)
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