なぜ長期欠席を問題視しなかったのか

野田市教委がアンケートのコピーを渡した3日後の昨年1月18日、心愛ちゃんは野田市内の別の小学校に転校し、3月には柏児相の判断で自宅に戻っている。その後は転校先の小学校が心愛ちゃんの様子を見た。心愛ちゃんは学級委員長に自ら立候補するなど活発に学校生活を続けていた。心愛ちゃん自身からも父親の暴力についての訴えはなかった。柏児相や野田市は「もう問題はない」と判断していた。

ところが昨年9月の夏休み明けに10日ほど学校を休み、今年1月7日の始業式以降に再び長期間の欠席。心愛ちゃんは1月24日に自宅の浴室で死亡しているのが見つかり、翌25日、父親の栗原勇一郎容疑者(40)が千葉県警に傷害容疑で逮捕された。

児相や市は、心愛ちゃんの長期欠席を問題視せず、自宅訪問も行わなかった。柏児相は、2月5日に行った記者会見で、心愛ちゃんが書いた父親の虐待を否定する手紙について、児相は父親によって書かされた疑いがあると考えながら、心愛ちゃんを自宅に戻すことを決めていたと説明した。野田市教委がアンケートのコピーを渡していたのと同様に行政の大きなミスである。

父親はこれまでどんな人生を送ってきたのか

父親の暴言や脅しに及び腰になって対応が遅れたことは問題だ。行政機関というのは危機管理に欠けるところがある。目の前の事象に対し、自らの都合のいいように「大丈夫だろう」と解釈し、傷口を広げてしまう。心愛ちゃんの手紙の信憑性を疑いながら、心愛ちゃんを自宅に戻した児童相談所の判断がそれに当たる。

対応が「まずい」と言えばその通りなのだが、学校や行政の対応ばかりを批判しても再発は防げない。娘を死に至らしめる虐待を続けるような父親が、なぜ存在するのか。父親はこれまでどんな人生を送ってきたのか。父親の育った環境から心の奥底まで調べ上げる必要がある。

いまの教育委員会、児童相談所、文部科学省などの行政機関にはそんな調査は不可能だ。原則、民事不介入の警察にもそこまで期待できない。

心理学者や社会学者、哲学者、法律家、報道関係者など、専門家や有識者で新しい第三者機関を立ち上げる必要がある。そこで心愛ちゃんの事件だけはなく、これまでの虐待事件の原因や背景を詳細に分析して共通点を洗い出し、その結果をもとに解決策を探るべきである。家族や社会の在り方まで議論を深める必要がある。

いまの国会で安倍晋三首相が虐待問題に前向きに対処する答弁をしているが、国会でも論議を尽くしてほしい。