悲痛な事件で明らかになったのは行政の無力
産経社説も「ただし学校や市教委、児相をいくら責めても根本的に何も変わらない。この悲痛な事件で明らかになったのは彼らの無力である」と皮肉を込めて指摘したうえで主張する。
「東京都目黒区で昨年3月、5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが両親の虐待を受けて死亡した事件を機に、厚生労働省のワーキンググループは児相に常勤弁護士の配置を促した。警察との情報共有、連携強化も求めている」
「児相には『支援』と『介入』という相反する機能があるが、児童福祉司の多くは介入の経験も知見も乏しい。それは学校や教委も同様である」
「日本弁護士連合会はかねて『弁護士は供給過剰で就職難』などと訴えている。そうであるなら虐待の問題に、もっと主体的に取り組んではどうか。介入には、法的な専門知識が必要である。威圧的な要求に対峙するため、退職警察官の採用も有効だろう」
虐待の問題で弁護士や警察OBの果たす役割は大きいはずだ。とにかく考え得る対策を進めていくことが重要である。
「その後のアンケートで虐待を訴えることはなかった」
2月2日付の朝日新聞の社説は「子どもを守るべき大人たちの判断ミスと連携不足が、またあらわになった」と書き出す。見出しは「大人がつぶしたSOS」だ。
朝日社説も多くの報道と同様に「だが信じられないことに、学校は昨年1月、アンケートの内容を父親に伝え、市教育委員会はコピーまで渡した。取り返しのつかない誤りで、関係者の責任はきわめて重い」と学校や教育委員会を批判する。
続けて「『告発』を知った親がさらにつらく当たり、虐待が悪化するのは容易に想像がつく。一方、必死の思いのSOSが裏切られたと知った子どもは、大人を信じられなくなるだろう。心愛さんは、その後のアンケートで虐待を訴えることはなかった」と書くが、これもその通りではある。
そのうえで「保護者が感情的になり、学校側だけでは対処できない例は少なからずある。弁護士らに相談したり、立ち会いを求めたりする仕組みを急ぎ整えるべきだ」と指摘するが、弁護士の介入を主張しているところを見ると、新聞社の論説委員はみな考えることが同じになるようだ。産経社説の方が後発になるので、産経の論説委員が朝日社説を読んで自社の社説に取り入れたのかもしれない。いずれにせよ、社説ファンとしてはその新聞社独自の見解が読みたい。