過去にとらわれて人生を棒に振るのか

いつしか、私はこう考えるようになりました。

嵜本晋輔『戦力外Jリーガー 経営で勝ちにいく 新たな未来を切り拓く』(KADOKAWA)

人生を100年とするならば、80年近く残されている私の人生というかけがえのない「資源」を5%しか可能性のないサッカーではなく、それ以外のところに投資したほうがよいのではないか――。

過去の12年間にとらわれたことで、12年間よりもずっと長いその後の人生を棒に振ることになるなら、そのほうがよほどもったいない、そう自らの可能性を見極めたのです。だからこそ、私はJリーガーに戻るための努力を断ち、次の世界で勝負することを決断しました。

いまここに、22歳で大学を卒業し、新卒で会社に入った、40歳の人がいたとします。その人のその世界でのキャリアは18年間。まだ、たったの18年です。その先の人生のほうが、ずっとずっと長いのです。

「前向きな撤退」があるから道が拓ける

多くの企業はいまだ、60歳を定年時期にしていますが、実際にその年齢でリタイアを選ぶ人は多くはないでしょう。かつてないほど現役で働く時間が長くなるだろう時代に、何かを手放し、次をつかみ取ることが「遅すぎる」ことは、決してありません。

「せっかく入った会社だから」「ここまでやってきたから」、そんな感情と、現実とは裏腹な「自分だけはこの業界で生き残れる」「この会社だけは大丈夫」といった願望に左右されて判断を誤ることほど、もったいないことはないでしょう。

「サッカー人生で最もよかったことは何ですか?」。そう聞かれたとき、私は迷わず「戦力外通告を受けたことです」と即答します。そこでサッカー選手としての自分を見極めることができたからです。決断できなければ、次を選ぶことはできません。そして、いまの私もありません。

“前向きな撤退”があるからこそ、新しい道が拓ける。前に進むことに比べて、ある程度コミットメントしたものを「手放す」という行為は、ビジネスにおいても、人生においても最も難しい決断の一つでしょう。しかしそれがあってこそ、人は新しい道を選び取ることができる。その大切さを、『戦力外Jリーガー 経営で勝ちにいく』を通じて、少しでも多くの読者の方にお伝えできればと思います。

嵜本 晋輔(さきもと・しんすけ)
SOU 社長
1982年、大阪府出身。関西大学第一高校卒業後、Jリーグ「ガンバ大阪」への入団と同時に関西大学に進学。引退後、父が経営していたリユースショップで経営のノウハウを学び、2007年にブランド買い取り専門店「なんぼや」を関西でオープン。2011年、株式会社SOUを設立し、同社代表取締役に就任。現在は「なんぼや」のほか、予約もできる買い取り専門店「BRAND CONCIER」から資産管理アプリ「miney」まで幅広く事業を展開。2018年3月、東証マザーズに株式上場。本書が初の著作となる。
(写真=iStock.com)
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