これから持つべきは「支店」よりも「スマホ」

さて二番目の要素であるフィンテックは銀行業界全体にとっては逆風になりそうです。私はハイテク分野のイノベーションに関わるコンサルティングが本業のため、フィンテック関連のベンチャー企業をよく知っています。ひとことで言えば、彼らはこれまでの銀行業が手にいれられなかったビッグデータをうまく入手して、これまで使われてこなかったようなアルゴリズムを用いて銀行よりも的確に情報処理をすることで既存の金融機関を出し抜く方法を編み出そうとしています。

たとえば住宅ローンを売る場合、既存の銀行はいろいろなところに広告を打ったうえで、住宅を買うことを決めた顧客が銀行窓口に来店することに期待してビジネスを行っています。

しかしフィンテックのベンチャーならもっとうまく先回りして顧客を獲得しようとします。たとえばスマホのGPSデータを見ればある消費者がマンションのショールームに頻繁に出かけるようになったといった情報が手にはいるかもしれません。そのデータを活用して集客すれば銀行よりも早く、潜在的な住宅ローンユーザーを獲得することができます。

これから先、未来の銀行業では支店を持っているよりもスマホを持っているほうがずっと銀行業での競争には有利だと言われています。その観点で見れば、今は異業種の携帯電話会社は、将来的には銀行の一番の競争相手になるのかもしれないのです。

キャッシュレス化の高まりは逆風になる

スマホということでは第三の要素である電子マネーやスマホ決済など決済分野の進化にも関係してきます。

政府は2020年の東京オリンピックに向けて、現在は遅れ気味のわが国のキャッシュレス(電子)決済の比率を上げることを主要な政策のひとつに挙げています。これまでの現金での決済を減らし、クレジットカード、電子マネー、スマホ決済などの利用を他国並みに増やしていきたいということです。

経済産業省の調査によると、わが国のキャッシュレス決済比率は18%程度(2015年)で、これは中国の60%、韓国の89%、アメリカの45%などと比べて大きく遅れています。そこで東京オリンピックを機会にこの比率を一気に上げていこうというのです。

日本全体にとってはよい変化だと思いますが、実はこの変化、銀行にとっては逆風です。なぜなら現金をハンドリングする業務や、銀行口座間で資金を送金する業務が銀行の本業であるのに対して、これらのキャッシュレス決済はその銀行の競合事業になるからです。

スマホ決済が広がれば海外と同じように個人間での資金のやりとりはスマホアプリ上で行うことになり、その手数料は銀行の送金手数料のような高い金額にはならないでしょう。決済分野やATMの手数料収入は銀行にとっては安定収入だったのですが、それがキャッシュレス化によって脅かされるわけです。