財政赤字を減らす効果は極めて限られる

一方、今回の消費増税でどの程度財政が改善するかを見てみよう。そこで、先ほど用いた内閣府のマクロ経済モデルの結果を基に、前回と今回の消費増税が財政赤字をGDP比で見て、何%改善する効果があるかを計算してみた。

まず、前回の効果を計算すると、1~2年目にかけて財政赤字/GDPを+0.9%ポイント程度縮小させたと試算される。

これに対し、今回は引き上げ幅が2%にとどまることに加えて、軽減税率や幼児教育無償化、社会保障の充実や一時的な増税対策も加わる。このため、財政赤字/GDPの縮小効果は0.1%ポイント程度となり、財政赤字削減効果は前回の1/9にとどまることになる(図表4)。

つまり、今回の消費増税の効果は、手厚い増税対策をしても、増税後の経済への悪影響が避けられない一方で、肝心の財政赤字を縮小させる効果は極めて限定的といえるだろう。

デフレ脱却宣言を遅らせる要因に

今後の消費税率引き上げの影響を評価するうえでは、個人的にはデフレ脱却への影響も重要と考えている。

政府が公言しているわけではないが、政府がデフレ脱却したかどうかを判断する際には、(1)消費者物価、(2)GDPデフレーター、(3)単位労働コスト、(4)GDPギャップ、の4つの経済指標がすべてプラスになり、すぐにマイナスにならないことが条件と言われている。(1)(2)は物価、(3)はコストを表す指標だが、中でも、(4)のGDPギャップは国内経済の需要の過不足状況を示したものであり、経済成長率に大きく影響を受ける。

一方、日本経済研究センターという調査機関からは、民間エコノミストの経済成長率の予測を集計して平均値を公表している。そこで、この数値を用いて消費増税後のGDPギャップを予測してみた。すると、民間エコノミストの平均予測に基づけば、消費増税後の2019年10-12月期の経済成長率は年率▲3%以上の落ち込みが予想されており、これにより2018年10-12月期以降プラスに転じる見通しのGDPギャップも再度マイナス、すなわち需要不足の経済に転じてしまうことになる。

実際、前回の消費増税の際も、直前には駆け込み需要の効果もあり、GDPギャップがプラスになったが、引き上げ直後に経済成長率が年率▲7%以上の落ち込みとなった。そして、結果的に安倍政権発足以前の水準までGDPギャップがマイナス、すなわち需要不足の状態となってしまった経緯がある。

以上を踏まえれば、今回の消費税率の引き上げも、政府のデフレ脱却宣言をさらに遠のかせることになるだろう。このため、本来であればこのタイミングでの消費増税は延期すべきだろう。そもそも、財政再建は歳出削減中心で行ったほうが過去の成功事例も多いという先行研究もある。しかし、増税派が多い自民党内で安倍政権が求心力を維持するために、消費増税は実施される可能性が高いと見ておくべきだろう。

永濱 利廣(ながはま・としひろ)
第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
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