「このままでは技術で優位性がなくなってしまう」

2014年1月に日産とルノーは購買、研究・開発、生産・物流、人事の4分野でシナジー効果を高めるために人事交流などを進めていくことを決めた。それまでは経営層における交流が主だったが、徐々に現場レベルに落ちてきた。日産の研究拠点である厚木のテクニカルセンターなどにもルノー社員が常駐するようになってきた。「一緒に研究していると能力が分かります。能力のないルノー出身の上司の指示にはもう従えない」という不満が研究現場にはたまっていたようだ。

日産関係者は「『技術の日産』と言われてきたが、このままでは技術で優位性がなくなってしまう危機感があった。これ以上ルノーとの関係を深めることには現場レベルでも異論が出始めていた」と言う。

今回のゴーン氏の逮捕がなかったとしても、日産とルノーのアライアンスの見直しは必要だったろう。だが捜査当局と司法取引までして、ゴーン氏を追い落としたことで、ルノーとの交渉がより難しくなってきた面は否めない。

仮にゴーン氏が年明けに釈放され、ルノー会長ないしは取締役として名実ともにルノーの立場で行動し始めたならば、日産経営陣の苦悩は計り知れない。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
(写真=時事通信フォト)
【関連記事】
大前研一「ゴーンなしでも日産はやれる」
日産"社員に厳しくゴーンに大甘"の給料表
日産の独立には「ルノー株増資」しかない
ゴーン逮捕で"富裕層の闇"にメスは入るか
「ルノーの乗っ取り」を防いだ日産の苦悩