そしたら僕を批判する連中が、世の中で三角関数は使われている! 建築、建設の現場で三角関数は使われている! 俺は料理をするときにも三角関数を使っている! 人生の選択の幅を広げるためにも三角関数は必要だ! 三角関数くらい人間の教養として必要不可欠だ! なんて喚き始めた。
中には、難しい数学の世界や物理の世界の話を持ち出して来て、「俺は三角関数を知っているからこういう話の面白さを理解することができるんだ、凄いだろ?」とその道のプロの学者でもない一般人が悦に入っているものも多くあった。
この人たちの話を聞くと、あー、三角関数を知っていることで優越感を持ちたいんだな、と感じたね。
三角関数が世の中で使われていることくらい、知ってるよ。僕が番組で発言したのは、「三角関数は世の中で生きて行くために絶対に必要不可欠な知識じゃない。国民全員が深く知っておくべき知識ではない。興味がわかないなら、無理やりやる必要はない。授業内容を理解できないまま席に着くことは拷問以外の何ものでもないし、三角関数ができないくらいで劣等感を抱く必要もない」ということ。
今回、「三角関数は、国民全員が絶対に勉強しなければならない!」「これくらいのことを知らなければ恥ずかしい!」と叫ぶ人たちの姿をみて、僕は「あー、こういう人たちは世の中のことをほんと知らないんだな」とつくづく感じたね。
三角関数なんか深く知らなくても人間的に立派な人、仕事を成功させている人、人生を謳歌している人たちはたくさんいる。むしろ、ここで三角関数は絶対に必要だ! と喚き散らしている人たちよりも、仕事面でも、収入面でも、生活面でも人生充実していることの方が多いんじゃないか? 僕は自分の人生の中で、そういう人たちをたくさん見てきた。だから「人生において三角関数は絶対に必要不可欠な知識ではない」と断言できるんだ。
ところが、一部狭い空間だけで人生を過ごしてしまうと、そういう人生の充実者に出くわすことが少ないのか、三角関数が絶対的なものになってしまうんだろうね。そういう知識を持っているか否かで優劣が決まってしまう世界しか知らなければ、なおさらだ。
そして、三角関数は万人が絶対に勉強しなければならないものだと言い張るような連中、すなわち国民大多数の現況よりも、自分の周辺の状況を絶対的な基準としてしまう連中が政治に携わってしまうと、多くの国民の感覚から乖離した政治をやってしまい、国民からソッポを向かれてしまう危険性が高い。イギリスをはじめとするヨーロッパやアメリカ、さらにはブラジルまでもが、インテリ連中から言わせると「ポピュリズム政治」に陥っているらしいが、それはそれらの国々のインテリ気取りの政治家連中が、自分の周辺のインテリ連中に嫌われないようなカッコつけの政治をやってきた結果、多くの国民の感覚をすくい上げることができずに、いま国民からしっぺ返しを食らっているに過ぎないだけだ。
三角関数が世の中、特に理系の分野で使われていることくらいは誰でも知っている。しかしそれが、国民全員が知っておかなければならないことなのか、三角関数を知らない人たちは人生の敗者になってしまっているのか、多くの国民は三角関数を活用しているのか、という広い全体的視野を持つことが、国全体を動かしていく政治家に必要な能力だろう。一部インテリたちに好まれるような政治ばかりをやっていれば、必ず国民から痛い目に遭わされる。