母親亡き後20年間で次女は2160万円が不足する計算

最後に次女の将来のお金の見通しを立ててみることにしました。母親によると、今の家(持ち家)は次女ひとりで暮らすには大きい、とのことなので仮に賃貸物件に住み替えをするということで試算してみました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Capuski)

会社で少しの期間、加入していた厚生年金保険とその後加入した国民年金で月額約6万円。支出は生活費として月額10万円、家賃は5万円としました。収入の6万円から支出の15万円を引くと、月額9万円の赤字。仮に母親亡き後20年間生活が続くとすると、9万円×12カ月×20年=2160万円のお金が足りなくなる計算になります。

「試算した不足分からすると、お母様亡き後、財産(預貯金・持ち家・土地代)のほとんどをご次女に相続させることになりそうです。そうなると、ご長女の遺留分についても考えておかねばなりません」

そこで、私は遺留分についてもお話をすることにしました。遺留分とは、ある範囲の相続人に対して法律上決められている最低限度の財産取得分のことを言います。

では、今回のご家族のケースでは遺留分はどうなるのか? 大まかな金額で母親に説明することにしました。

「大まかにお話をすると、相続人は姉妹の2人なので、遺留分は相続財産の1/4となります。仮に、相続財産が現金預金、自宅や土地で2000万円分あったとします。すると、遺留分は2000万円×1/4=500万円になります。もしご次女に全額の2000万円分を相続させると、ご長女の遺留分である500万円を侵害してしまいます。そのため、相続開始後、ご長女が遺留分の権利を主張すると500万円のお金をご長女に渡すことになってしまいます(民法改正後の遺留分侵害額請求権を主張したものとして)。結果として、ご次女は1500万円分の相続をすることになります」

「財産すべてを次女に相続させることができないんですね」

「もちろん、ご長女が遺留分の権利を主張しなければ、財産すべてをご次女に相続させることも可能です。しかし、そのためにはお母様が生前にご長女にしっかりと説明をしておく必要があるでしょう」

長女に最低限の財産取得の権利を主張しないようにお願いを

長女の遺留分に関して、母親の生前に対策をとっておくほうが望ましいと思われました。そこで、生前対策についていくつかのご提案をしてみました。

・母親の遺言を作成しておく
・将来の見通しの表を長女にも見てもらい、お金がこれだけ必要であることを説明し、理解してもらう
・長女には遺留分の権利を主張しないようにお願いをしてみる
・遺留分よりも少ない金額の相続で納得してもらえないかお願いをしてみる
・生命保険などを活用し、一部の現金を相続財産から切り離す

など。

「ご長女には申し訳ないとは思いますが、ご次女の生活のため、理解してもらえるように何度も話をしていくしかないでしょう。その際、将来の見通しの表などを見てもらい、数字を使って説明するとより理解してもらいやすいかもしれません。将来の見通しの表など、ご家族で話し合う時に必要な書類は私が作成します。また、私は遺留分についてはざっくりとしたご説明しかできません。場合によっては相続の専門家の力を借りることも検討してみてください」

そうお伝えすると、母親は神妙な面持ちで何かを考えている様子でした。