ただ、不要不急な活動への経費支出と判断された可能性はある。そのような判断は、環境マネジメント活動は重要ではないと判断したことを意味していることを確認しておく必要がある。環境マネジメントへの投資は、短期間で成果を産むものではなく、長期継続的な取り組みを通じて、初めて成果を産みだすことができるのであって、これを不要不急と考えてはならないのである。

さらに、ISO14000シリーズの導入によって、効果が上がらなかったとする理由もある。しかし、この説明にも説得力はない。ISO14000の認証を取得していることだけで、社会や取引先の信頼が得られると考えたのだろうか、海外企業の取引拡大にあたっては、確かに取引条件とされることがあるが、これは必要要件であって十分条件ではない。取引拡大のためには、優れた製品やサービスの提供、適時の配送、確実なフォローアップなど、取引の基本要件をすべて満足することが不可欠なのである。

導入するだけで効果が上がるという「幻想」が剥げる

また、環境マネジメントシステムを導入するだけで、従業員の環境意識が高まり、組織が活性化するとは思えない。継続的な研修や啓蒙活動を通じて、環境への意識は組織に定着するものなのである。環境マネジメントが担当部署のみの業務にとどまるようであれば、環境文化は組織には定着しない。

要するに、ISO14000シリーズを導入するだけで、驚くほどの効果が生まれるという「幻想」と、他社との横並び意識が、一時期、世界で最も認証を保持する国に日本を押し上げただけにすぎない。「幻想」が幻想であることがわかり、多くの企業が認証維持を放棄したと考えるのが妥当だろう。このことは、残念ながら、日本企業には、地球市民であるという意識が極めて希薄であることを意味している。環境文化それ自体が不在なのである。

即時の効果が得られないから支出を抑制するという考え方にも問題がある。望ましい環境文化を構築するには、長期間にわたる継続的な投資が必要なのだ。支出を抑制したいのであれば、その対象となる付加価値を生まない活動は、組織内に山ほど存在する。海外子会社に働く日本人従業員を慰労することを主目的とする取締役の海外出張。惰性的に支出されている投資効果が不明な広告宣伝。年度末の予算消化。それらの削減効果は極めて大きい。これらのほんの一部でも削減に成功するなら、環境関連の支出はまったく削減する必要がないばかりか、多額の投資を行う原資を容易に獲得できるのである。