日産トップのカネと女

いったい、どこから金が出ているのだろう。

情報を集めれば集めるほど湧いてきたのは、金にまつわる疑惑だった。その象徴が塩路一郎の趣味であるヨットだった。佐島マリーナに係留していた本人が所有する「ソルタス3世号」の船価は3500万円。問題は費用をどのように捻出したかだ。本人は持ち株を売ったと語っていたが、マスコミの取材によって、答え方がその都度違っていた。所有する2カ所のゴルフ会員権の相場価格は合わせて4300万円。この費用の出所も不明だった。

また、塩路一郎は毎晩のように、銀座や六本木の高級クラブや高級料理店に通っていた。自動車労連の「会長交際費」の支払先は30~40軒におよび、なかでも六本木の1軒には数千万円のオーダーで支払われていた。夜の遊興費の一部は取引先の部品メーカーにも負担させていた。それは、労組を半ば“私物化”していたことを思わせた。

塩路一郎の女性遍歴

金にまつわる話以上に、塩路一郎という人間のきわだった性向を物語ったのは、何人もの女性との特別な関係についての情報だった。私が記録し続けた「塩路会長ファイル」には、「女性遍歴」について「第三者によって裏付けられているものだけでも次のリストができる」として9人の女性の名前が並んでいる。

川勝宣昭『日産自動車極秘ファイル2300枚』(プレジデント社)

神楽坂の芸者、有名劇団の女優、銀座のクラブのホステス、ロサンゼルスのピアノバーの歌手、ホステス。なかでもピアノバーの歌手については、より詳しい情報が載っている。

米国日産の拠点があったロサンゼルスに頻繁に出張に出掛けていた塩路一郎は、現地のクラブでピアノを弾いていた韓国系の女性を見そめ、「日本でピアノの学校に通わせてやる」「スターにしてやる」と口説いて日本に連れてきて、六本木のマンションに住まわせた。しかし、一向に約束が守られないことに怒った女性は、米国に帰国した。

こうして収集していった女性スキャンダルの情報が、その後、われわれの戦いを大きく前進させ、新たな局面を切り拓くことになった。(文中敬称略)

川勝宣昭(かわかつ・のりあき)
経営コンサルタント
日産自動車にて、生産、広報、全社経営企画、さらには技術開発企画から海外営業、現地法人経営者という幅広いキャリアを積んだ後、急成長企業の日本電産にスカウト移籍。同社取締役(M&A担当)を経て、カリスマ経営者・永守重信氏の直接指導のもと、日本電産グループ会社の再建に従事。「スピードと徹底」経営の実践導入で破綻寸前企業の1年以内の急速浮上(売上倍増)と黒字化を達成。著書にベストセラーとなった『日本電産永守重信社長からのファクス42枚』(プレジデント社)。『日本電産流V字回復経営の教科書』(東洋経済新報社)がある。
(写真=時事通信フォト)
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