出世して嬉しいのに、悪夢が増える不思議

人間はストレスの影響下に置かれると夢が増えていきます。特に悪い夢が増えてきたら、感情的な負荷がかかっているサイン。仕事や人間関係の悩みが、そのまま露骨に夢に反映されるとは限らず、子供のころに嫌な思いをした夢、現実の出来事とは関係ない嫌な夢など、悪い夢のパターンはさまざまです。

写真=iStock.com/ra2studio

自分ではそこまでストレスを自覚していないときでも、もし繰り返し悪夢を見るようになったら、実はなんらかのプレッシャーがかかっているかもしれない。出世や子供の誕生など、一般的には喜ばしい出来事があったときに、なぜか悪夢が増えた、という人も意外にたくさんいます。私が教えている学生にも、運動部でレギュラーになった途端に、試合で負ける夢を毎日見るようになったというケースがありました。

悪夢は、うつ病の前兆となる場合もあります。仕事以外でも、介護や育児にまつわる家族とのいざこざやトラブルなど、現実に起きていることに関連した、似たようなテーマの悪夢を長期にわたって、持続的に見るようになってきたら、まずはストレス過多であることを自覚しましょう。

現代の日本社会は、ビジネスシーンにおいては特に、業務量が多く、しかも感情労働(感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などを不可欠の職務要素とする労働)も多くて、働く人にかなりの負荷がかかっています。ストレスが増えると、悪夢も増えてきます。すると、ただでさえ睡眠時間が短いのに、さらに睡眠の質も低下してしまい、慢性睡眠不足になり、うつ病につながっていってしまうことがあるのです。

嫌なことは、寝れば忘れるか?

悪夢を見るのは防御反応だという説があります。よく「嫌なことは寝て忘れる」と言ったりもしますが、実際に、カリフォルニア大学バークレー校のマシュー・P・ウォーカーらの研究によると、レム睡眠時に恐怖記憶の定着が減弱した、という結果が出ているのです。

しかし、その一方、私自身が携わった脳波を用いた研究では、むしろレム睡眠の時間が長いほど、恐怖記憶は蘇りやすくなることがわかりました。また、国立精神・神経医療研究センターで行われた研究でも、災害や犯罪の被害に遭ったときには、直後にあまり寝ないほうがいいという指摘が出ています。被害に遭った当時は全然眠れない、という事例もありますが、それは脳の防衛機能なのであって、嫌な記憶をなるべく定着させないようにしている、ということなのです。