恐ろしい夢を見て、心臓バクバク、汗だくで跳ね起きたことはないだろうか。そもそも、なんで自分の意思とは無関係に、そんな夢を見るのか――。そのメカニズムと深層心理、さらには対処法を、「夢」を研究する専門家に聞いた。
【理論編】
悪い夢はストレスのバロメーター
西多昌規●精神科医

社会人になった今でも受験に失敗する夢を見るなど、現実とは関係はないのに、なぜかいつも同じような嫌な夢を見る、という人も多いのではないでしょうか。私もいまだに、自分が医学部の学生で、気がついたら単位がまったく取れていない夢を見ることがあります。

人はなぜ夢を見るのか、その理由は解明されていません。研究者によって意見が分かれています。同様に、悪夢にも、プラスの作用とマイナスの作用があるなど、諸説あります。夢には、まだまだたくさんの謎が残されているのです。

ただ、冒頭で触れた決まった夢ばかり見ることに理由があるとすれば、それはおそらく多感な思春期に、非常に強い、ストレスフルな経験が刷り込まれるからなのでしょう。そのため、何年、何十年と時間が経ってもリピートして出てきやすくなるのです。

世代によって嫌な夢の傾向もいくつかあり、私たちの世代ですと受験が一番のストレスですし、年配の方々になると戦争や空襲の夢になってくるようです。

そもそも夢とは一体なんなのでしょうか。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がありますが、夢を見るのは、主に眠りが浅くなるレム睡眠のときです。レム睡眠中、体は休息しているけれども、脳は起きているときと同じくらいに活性化しています。このとき、脳の中の感情や視覚を司る部分が勝手に動いて、めちゃくちゃな筋書きで浮かんでくるイメージのようなものが夢だとされています。

一方、ノンレム睡眠とは、眠りの浅いレム睡眠から徐々に覚醒状態が静まっていく段階も含め、「ぐっすり眠っている」状態の睡眠をさします。厳密に言うとノンレム睡眠でも夢を見ているようですが、ノンレム睡眠の夢にはストーリーがあまりありません。悪夢のように不快だとか、怖いといった感情はなく、ぼんやりとした森の風景など、ニュートラルなものがほとんどです。ストーリーのある夢や悪夢は、いずれもレム睡眠中に見ていると考えられます。