なぜ正しいニュースよりも、「ウソっぽいネタ」のほうが、より強く拡散してしまうのか。国際基督教大学教授の森本あんり氏は「荒唐無稽な話を広める人は、内容が事実でなくても構わないと思っている。なぜなら自分が納得できることが正しいと捉えているからだ。その『自分は正しいことを言っている』という意識は、酔いしれるような強い快感をもたらす」と分析する――。

人を惹きつける「陰謀論」

世界の各地で、ポピュリズムが急速に政治的な発言力を増している。ポピュリズムの陰には、しばしば陰謀論も見え隠れする。アメリカでは、陰謀論を唱える「QAnon(Qアノン)」という不気味な集団がトランプ支持者たちの間で広まっている。日本では、ブログの呼びかけを背景に「反日」「在日」と決めつけられた弁護士の懲戒請求が各地の弁護士会に出された事件も発生した。陰謀論の素地や特徴はそれぞれ違っていても、彼らの掲げる主張はみな単純でほとんど荒唐無稽である。

だがそれでも、こうした主張は人びとを惹きつける強い魔力をもっており、いったん信じた人はその筋書きを熱狂的に支持するようになる。なぜ人びとは、それほどまでに陰謀論に魅せられてしまうのだろうか。そして、なぜ「事実」は、それらの人びとの誤った思い込みを正す力をもたないのだろうか。