そもそも外科医の技量は経験によるところが大きい。教科書には手術の際にここからメスを入れろと書いてあっても、実際は反対側からのほうがいいというようなことがある。外科医にはそうした実践的な知識の蓄積がある。代々の開業医は、部下である勤務医にはそれを伝えないかもしれないが、跡継ぎの息子には必ず伝えるだろう。伝統芸能ではないが「一子相伝」のところが多分にある。だから外科の開業医は名医である確率が高いといえる。
私が卒業した東京慈恵会医科大学などの「御三家」を含め、私大医学部はそもそも臨床医、なかでも開業医を養成するために設立された。いまでも開業医には私大出身者、それも代々の開業医が多い。したがって慈恵医大や日本医大、順天堂大学、地方では岩手医科大学、久留米大学を出た外科医は信頼に値する場合が多いのである。
それに対して、内科系は「診断学」といっていいほど最新の医学知識が重要になる。また、内科医には日常的にものごとを論理的に考えたり、情報を整理したりする能力が求められる。
すると、たとえば神経内科のような高度の知識を必要とする分野では、東大など旧帝大系や慶大、東京医科歯科大といった、偏差値の高い大学の出身者に信頼できる医師が多いと考えるのが妥当だろう。この場合は、大学の格よりも偏差値である。
ところで、これまで述べてきた「出身大学」とは、あくまでも学部であって大学院ではない。だからその医師の格も学部に紐づいていることを指摘しておきたい。大学院を出て医学博士になる医師も多いが、これはもちろん医師としての技量とは関係ない。
あまり知られていないことだが、日本では医師資格を持っていなくても医学博士にはなれる。堀場製作所創業者の故・堀場雅夫氏は京大理学部卒のインテリ起業家として著名だったが、医学博士でもあった。でも医師ではない。学位を取るときに医学分野の研究をされたというだけである。私の知人には栄養学の研究で医学博士になった人もいて、この人ももちろん医師ではない。
だからというわけではないが、医学博士と名刺に刷り込んである医師を名医だと勘違いしてはいけないということも申し上げておきたい。