古くは明治時代から、新設の医学部は既存大学から教員(医師)を受け入れ、次世代の教育に当たってきた。そのため、教員の送り手側と受け手側との間に系列という関係性が出来上がる。歴史のある医大ほど、より多くの医学部に出身者を送り込み、その影響は教授人事などにまで及ぶのだ。
また、医師の世界には医学部教授が系列病院の医師人事を左右する「医局」という仕組みがある。病院の頂点は大病院の理事長や院長だが、格の高い大学でたとえば教授だった人が定年を迎えたら系列の大病院のトップへ天下りし、数年ごとに別の病院へ移るという慣習がある。だから、同じ医師でも格の高い大学を出ていれば、大学や大病院で出世する可能性が高いのである。
系列病院の数も格によって決まり、たとえば東京都内なら大病院の7割近くは東大系列だ。慶應義塾大学の系列も頑張ってはいるが、東大優位は動かない。国立の東京医科歯科大学は偏差値のきわめて高い難関だが、旧制医専がルーツなので医学部の格としては図に示した「Rank4」であり、系列病院も少ない。これが東北地方なら東北大学、九州なら九州大学の系列が強いという具合に、それぞれの地域で格に基づいた序列が出来上がっている。
では、大学の格や偏差値と、医師の実力とはどのような関係があるか。
当たり前だが、出身大学の格や教授・院長・外科部長などの肩書と、医者としての能力は別物である。「東大や慶大の高名な教授に診てもらえば安心」といえる根拠はどこにもない。
外科の開業医は「一子相伝」の技術を持っている
特に顕著なのは「治療学」である外科系であろう。外科で大事なのは手術手技の巧みさだからである。名医と呼ばれる外科医のプロフィールを見て、意外にも東大ではなく、日本大学や奈良県立医科大学、愛媛大学といったRank4や5の出身者が多いということに気づいた方もいるだろう。これは意外ではなく、当然なのだ。
総じて出世には不利な格の低い大学の出身者は、出世よりも手術手技を磨くことや開業を考えるので、結果として名医が育つのだろう。開業医に関しては次のような事情もある。