ヤラセ排除で「BPO」が役に立たない根本原因

水島氏の以下の言葉は、報道の現場について書かれたものではあるが、今回のことにも共通するところがある。

「取材の現場にまったく同じものがないように“不適切な取材”にもまったく同じものはない。だから、この種の不祥事はいつまでも続く。場当たり的な方策を練るよりも、取材や放送にかかわる個々の人間たちのジャーナリストとしての判断や精神を『育てていく』という方向こそが正解だろう」

こうした不祥事が起きると放送倫理の番人「BPO(放送倫理・番組向上機構)」が検証することが多いが、水島氏は、ここは捜査機関ではないから調査権限はないし、あくまで放送局側の自主的な協力に期待するシステムだから、局側が「これはアウトだ」と考えていないと、審議に入ることさえ難しいという。

「BPOには視聴者だけではなく、放送局を擁護するという面もあり、けっきょく何を重視して判断を下しているのか毎回の結論を見ていても分かりにくい。結論の導き方も明確ではなく、放送局の中からも『BPOは毎回ブレている』という批判が多いのが実情である」

私は、バラエティにヤラセ的な演出があっても、それで見ている人たちが楽しんでいるなら、目くじらを立てる必要はないと考える。

だが、ないものをデッチ上げ、視聴者を騙す捏造はあってはならない。今回は度を越しているといわざるを得ない。

NESWポストセブン(11月15日)は、『イッテQ』のすべての祭りを検証したが、そのうち11の祭りが存在を確認できなかったと報じている。そのうちの7つがタイ近郊だったという。これが意味するところは明らかだろう。

今のメディアの人間は「忖度選手権」で優勝した人ばかり

こうしたことが起きないようにするには、制作する側に、「エンターテイメントといえど、これ以上はやってはいけない」と判断できる人間を育てるしかないが、現状は難しいようである。

私がいた出版社でも同じだったが、権力どころか先輩や上司たちの理不尽な要求にも逆らえないヒラメ社員ばかりが増えている。

日テレの大久保社長が、会見で今回の不祥事を「ヤラセ」と明言しなかったのは、そうした社内の惨状が外に知られることを恐れてのことだと、私は忖度している。(文中一部敬称略)

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。
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