海外事例にも学び必要な改革を

日本の場合、既存の認可保育所や幼稚園を残したまま、まさに屋上屋を架する認定こども園の制度を新設した。既得権に配慮した最小限の改革の結果、例えば保育士と幼稚園教諭の資格はいまだに分かれているし、施設要件などもそれぞれ異なっていて非効率である。ただでさえ不足した保育インフラ、リソース(資源)を効率的に活用するには、幼稚園と保育園の壁を完全に取っ払うべきだろう。

既存も含めて、すべての幼稚園、保育園を、認定こども園に衣替えするような抜本的な改革ができないのは、既得権を持つ人たちの力が強く、彼らが規制によって有利な立場にいるからだろう。保育所は決して儲かるビジネスではないが、既存の保育園を営む社会福祉法人は固定資産税の減免を受けられることが知られている。

待機児童のいない国のうち、スウェーデンやフィンランドなどの北欧諸国は、巨額の財政支出によって保育サービスの供給を維持している。その代わり、投入される国家予算は日本の3倍だ。北欧諸国の場合、保育所利用者の支払う保育料は私立でも公立でも同額であり、保育予算が今の3倍になれば、日本でもおそらく同じようなことができるかもしれない。しかし、そのためには国民の負担も重くなる。

シンガポールは北欧とは異なるアプローチで、保育サービスの供給を維持している。シンガポールの保育所は保育料を自由に設定可能だ。また、補助金はユーザーである国民に配られている。国民は補助金の範囲内の最小限の保育所を選ぶこともできるし、それにいくらか上乗せして環境がいいとか、サービスの質の高い保育所を選ぶこともできる。

補助金は供給側の保育所でなく、需要側である利用者に渡すべきだ。いわゆる保育バウチャー制度である。そして、利用者が保育所を取捨選択し、より利用者に支持される保育所が選ばれて生き残っていくのが健全な市場経済である。政府は保育所の最小限の設置要件と安全面の基準のみを課せばよい。